448 死のライオン
結局抱きつかれたまま酒場のカウンターへとたどり着いた俺を見て店主は笑っている。
「なんだ嬢ちゃん、その子たちにはかたなしか?」
態度は友好的だ。
俺は「ははは……」と笑った後に彼へと尋ねてみる。
「仕事が欲しいんだ……何かないか?」
すると店主は何かを考えるそぶりを見せ――。
「良い依頼は無いな……面倒なのが多いが」
「面倒なの?」
首を傾げて尋ねるのはチェルだ。
その顔はどうも嫌そうではあった。
仕方がないよな……ついこの間あんなことがあったばかりなんだ。
俺だって忘れられない。
いや、一生をかけたって無理だ。
「ああ、街にネコ婆っていうあだ名の婆がいるんだよ」
「ネコ婆ですか?」
変な名前だな。
クリエもそう思ったのか、少し訝し気な表情だった。
すると――。
「知ってる……変な猫を集めているお婆ちゃん……強いって噂」
ファリスは知っているのか……。
とにかく、そのお婆さんはこの町に居たってことだな。
でも、そのネコ婆がどうしたのだろうか?
「まさか猫探しをしろって言う事かい?」
「いや、そんならそこいらのガキに任せるさ」
彼発想言うと少し迷うそぶりだったが、溜息をついた後にようやく話を切り出した。
「実はな、ネコ婆が倒れてな、少しの間猫の世話をしてほしいって事なんだよ」
「……猫の世話? なんだそんな事か」
猫なら以前の世界でも実は飼っていた事がある。
なんてことはないが、動物は好きだし、問題はない。
「そんな事ってお前……」
なんでそんな事って言われるんだ?
なんか腑に落ちないが……。
「……猫の世話だろ?」
「ああ……だが、この町の強者は皆断ったんだぞ?」
ん? なんだ?
もしかしてライオンとかトラとかチーターとかを相手にしろと?
いや、流石にそれはないだろう。
猫だし……。
確かに猫科ではあるが、お婆さんが飼えるんだし……。
「……本当に良いのか?」
「ああ、その前に報酬は?」
俺が訪ねると店主はカウンターの下から布袋を取り出す。
ドンっという音が鳴り響き、驚くが――。
「5000ケートだ」
「これは受けない方がいい……」
ファリスの言葉に俺も何となく察した。
猫の世話で5000……破格すぎる。
絶対可愛い猫の世話じゃないだろう。
先ほどはない! と思ったがライオンか何かの世話に違いない。
「どうやら猫は強者にしかなつかないみたいでな」
「そんな所にも大陸性が出てるのかよ……」
俺はがっくりと項垂れる。
とにかくやるにしても辞めるにしても情報は必要だな。
「それで、猫は何なんだ?」
「リエールチという魔物だ……その爪は人間の骨なんか簡単に砕いちまう」
「「「………………」」」
それを聞いた後、黙り込んで俺を見るのはクリエとチェル、そしてファリスだった。
彼女たちは首を横にぶんぶんと振ると。
「ダメです、キューラちゃん無理します」
「うん、無理、する……」
「大人しくさせるために戦うかもしれない……」
君たちの俺の評価は一体何なのだろうか?
「無理はもうしないって……というか、こっちにはライムもいるんだぞ?」
もし何かがあるようならライムに守ってもらえば間違いないはずだ。
というか流石にペットと戦う事はしないぞ……。
そんな事をすればいくら危険な猫を飼っている人でも怒るだろうことは予測できる。
少なくともその人にとっては可愛いペットなんだからな。
俺はそう言いたかったが、横で笑いながら煙草を吹かせている女性が目に入り、何も言えず黙り込むしかなかった。




