447 酒場へ
食事を終えた後、俺達は酒場に向かう。
店へと入ると視線が集まるが誰も文句は言わない。
出来ればツッコミが欲しいところだ。
何故なら……。
「クリエ、ファリス……頼むから離れてくれないか?」
そう、あれからずっと俺は二人にくっつかれたままだ。
流石に食事の時は離れてくれたが「アーン」とか言ってくるもんだから困ったものだ。
しかもそれを見てチェルが怒っていたのだから気が気でなかった。
「…………」
というか今現在、後ろから凄い気迫を感じる。
「別に狙ってたわけじゃないし……心配だからそうしただけだし……」
思いっきり聞こえてるのは分かっている。
というか、何度か俺が謝ることになったが……。
彼女は「キューラちゃんは悪くないよ?」と笑顔で怒るぐらいだった。
なんというか本当に怒ってるんだなってのがにじみ出ている笑顔だった。
もう、「あ、うん」としか言えないぐらいだ。
「……あ、あのチェルさん?」
「なに?」
まるで後ろに「ゴゴゴゴゴゴ」という効果音が出ているのではないかという笑顔で答える彼女に俺は恐る恐る尋ねる。
理由は簡単だ。
「その、出来るだけ無理はしないようにしたいんだが……」
「そう、そうだねー」
うん、怖い。
対し二人は抵抗するようになぜか俺への拘束を強める。
すると更にチェルの笑顔が深まったように見えた。
「あれはやべぇ……」
「ああ、戦わなくてもわかる……手を出したらまずいな」
「……一番強いのは格闘家の嬢ちゃんじゃなくてあっちかよ……」
酒場の皆さんは何を言っているのだろうか?
そんな事を思っていると当の本人にも聞こえたらしく、まるで油の切れた人形のように首をそちらへと回し……。
「なん、ですか?」
「ヒィィィィ!?」
野太い悲鳴が上がった。
どうやら全国共通で大人しい人を怒らせてはいけないというのは同じだったのだろう。
いや、前世でもそんな事を聞いたことあるし……。
異世界単位でのお約束なのだろうか?
「キューラちゃん、その顔は何?」
「あ、いえ、なんでもないです」
どうやら顔に出ていたみたいだ。
口にしたら怒るに決まっている。
「っと仕事探しを手伝ってくれ」
俺がそう言うと少し雰囲気が柔らかくなったようで目を閉じ……。
「仕方ないなぁ……」
とつぶやいた。
その事にほっとしていると後ろから笑い声が聞こえた。
今の今まで助けの他の字も出してくれなかった女性はタバコをふかし。
「ああ、おっかないねーモテるのも大変だ……」
「トゥスさん……」
「違いますからね?」
俺とほぼ同時にチェルの答えが飛び、トゥスさんは大げさな態度で両手を上にあげ……。
「はいはい、分かってるよ……全く、冗談も通じないのかい?」
いや、だから挑発をしないでくれ、頼むから……。
「……私やっぱりあなたの事嫌いです」
「……だろうね、まぁだからと言って協力しないわけじゃないだろ?」
にやりと笑うトゥスさんとそっぽを向くチェル。
これで関係が壊れないというのは不思議でならないが……。
それ以上言い合ったりせずにチェルは俺の前へと来ると――。
「ほら二人とも、キューラちゃんが歩きにくいからいい加減離れて……」
「嫌です! 私のです」
「お姉ちゃんは……渡さない」
二人の返事にチェルはうんざりしたようにため息をつくのだった。




