446 心の傷
俺が泣き始めると彼女は赤子を慰めるように頭を抱いてくれた。
ゆっくりと紙をすくように撫でられているといつの間にか落ち着きを取り戻していく。
そうすると当然恥ずかしくなってくるわけだ。
「ご、ごめん……」
チェルだって苦しいはずだ……。
辛いはずだ。
だというのに……彼女は助けてくれる。
本当に情けないな俺……。
「謝る必要なんてないよ、人は誰だってつらい事があるし……それを一人で乗り越えるのは難しいんだから」
彼女はそう言うと寂しそうに笑みを浮かべた。
そうだよな……そうなんだ。
どう取り繕おうが彼女だって辛い。
分かってる。
だからこそ、彼女は優しくしてくれたのかもしれない。
「もう大丈夫?」
「あ……うん」
いつまでも抱きしめられているわけにはいかない。
どうしたって恥ずかしいし……。
何より、クリエやファリスに見られたら……。
いい訳なんて思いつかないしな。
いや、寧ろ言い訳をしたら怪しまれるか……。
そう思いながら彼女から身を離すと……。
お互いの顔を見つめ互いにぎこちない笑みを浮かべた。
「え、えっと……か、髪整えなきゃ!」
チェルはそう言うと恥ずかしそうにドレッサの方へと向かう。
確かにぼさぼさだ。
恐らく、俺を気づかってくれたんだな……。
「キューラちゃん?」
「…………」
俺はゆっくりと顔を越えの方へと向ける。
視界の端にチェルの頭が動いているのも見えた。
恐らく、彼女も声が聞こえたからだろう。
「は、はい……」
「なにを……してたんですか?」
にっこりと笑みを浮かべているのはクリエだ。
だが、その後ろにもニコニコとしている少女が一人……。
そう、ファリスだ。
「な、何もしてないぞ……」
言った事は間違ってない。
彼女は慰めてくれただけだ。
だが……なんでこんな威圧感があるのだろうか?
とにかくヤバイと俺の中の何かが伝えてきているのだ。
「……本当、ですか? それならいいんですが」
「油断、できない」
うん、なんだろうか……コレ。
何故二人はそんな顔をしているんだ?
俺がそう思うと同時に彼女たちに抱きしめられ――。
「「キューラちゃんは私のです!!」」
「……だ、誰のものでもないと思うな?」
チェルは流石にその訴えにもっともな答えを返す。
確かに俺は誰のものでもない。
だが、この二人にその言葉は――。
「やっぱり……」
「キューラお姉ちゃんが狙い……」
そうなるよな……。
俺の予想通りだな……しかしまぁ……。
「なんでそうなるの!?」
チェルは顔を真っ赤にしてこちらへと近づいてくると二人へと目を向け……。
指を突きつけると――。
「わ、私はただ――」
「ただ?」
チェルが何かを言おうとした時、訝しむようなファリスの視線に彼女はそっぽを向き。
元居たドレッサーに向かってしまう。
一体どうしたというのだろうか? てっきり言い返すと思ったんだが……。
「やっぱり」
「違うからね!? 今何を言っても無駄だって思っただけだからね!?」
何故チェルはそこまで必死になっているのだろうか?
「モテモテだね……」
「トゥスさん……頼むから茶化さないでくれ……」
何故そこで止めずに笑っているのだろうか?
と言うか頼むから止めてくれ……。
「二人とも、いい加減……熱いんだけど?」
俺はそう訴えるが、なぜか更に抱きしめられる結果になってしまった。




