表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
467/490

446 心の傷

 俺が泣き始めると彼女は赤子を慰めるように頭を抱いてくれた。

 ゆっくりと紙をすくように撫でられているといつの間にか落ち着きを取り戻していく。

 そうすると当然恥ずかしくなってくるわけだ。


「ご、ごめん……」


 チェルだって苦しいはずだ……。

 辛いはずだ。

 だというのに……彼女は助けてくれる。

 本当に情けないな俺……。


「謝る必要なんてないよ、人は誰だってつらい事があるし……それを一人で乗り越えるのは難しいんだから」


 彼女はそう言うと寂しそうに笑みを浮かべた。

 そうだよな……そうなんだ。

 どう取り繕おうが彼女だって辛い。

 分かってる。

 だからこそ、彼女は優しくしてくれたのかもしれない。


「もう大丈夫?」

「あ……うん」


 いつまでも抱きしめられているわけにはいかない。

 どうしたって恥ずかしいし……。

 何より、クリエやファリスに見られたら……。

 いい訳なんて思いつかないしな。

 いや、寧ろ言い訳をしたら怪しまれるか……。

 そう思いながら彼女から身を離すと……。

 お互いの顔を見つめ互いにぎこちない笑みを浮かべた。


「え、えっと……か、髪整えなきゃ!」


 チェルはそう言うと恥ずかしそうにドレッサの方へと向かう。

 確かにぼさぼさだ。

 恐らく、俺を気づかってくれたんだな……。


「キューラちゃん?」

「…………」


 俺はゆっくりと顔を越えの方へと向ける。

 視界の端にチェルの頭が動いているのも見えた。

 恐らく、彼女も声が聞こえたからだろう。


「は、はい……」

「なにを……してたんですか?」


 にっこりと笑みを浮かべているのはクリエだ。

 だが、その後ろにもニコニコとしている少女が一人……。

 そう、ファリスだ。


「な、何もしてないぞ……」


 言った事は間違ってない。

 彼女は慰めてくれただけだ。

 だが……なんでこんな威圧感があるのだろうか?

 とにかくヤバイと俺の中の何かが伝えてきているのだ。


「……本当、ですか? それならいいんですが」

「油断、できない」


 うん、なんだろうか……コレ。

 何故二人はそんな顔をしているんだ?

 俺がそう思うと同時に彼女たちに抱きしめられ――。


「「キューラちゃんは私のです(お姉ちゃんは私の)!!」」

「……だ、誰のものでもないと思うな?」


 チェルは流石にその訴えにもっともな答えを返す。

 確かに俺は誰のものでもない。

 だが、この二人にその言葉は――。


「やっぱり……」

「キューラお姉ちゃんが狙い……」


 そうなるよな……。

 俺の予想通りだな……しかしまぁ……。


「なんでそうなるの!?」


 チェルは顔を真っ赤にしてこちらへと近づいてくると二人へと目を向け……。

 指を突きつけると――。


「わ、私はただ――」

「ただ?」


 チェルが何かを言おうとした時、訝しむようなファリスの視線に彼女はそっぽを向き。

 元居たドレッサーに向かってしまう。

 一体どうしたというのだろうか? てっきり言い返すと思ったんだが……。


「やっぱり」

「違うからね!? 今何を言っても無駄だって思っただけだからね!?」


 何故チェルはそこまで必死になっているのだろうか?


「モテモテだね……」

「トゥスさん……頼むから茶化さないでくれ……」


 何故そこで止めずに笑っているのだろうか?

 と言うか頼むから止めてくれ……。

 

「二人とも、いい加減……熱いんだけど?」


 俺はそう訴えるが、なぜか更に抱きしめられる結果になってしまった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 冬場ならまだ良かったのに( ˘ω˘ )
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ