441 攻略法
仲間達を後ろへと下がら自分自身も身を引っ込める。
すると横をかすめていくのは冷たい……。
いや、氷の風だ。
おそらくこれが奥からきたから凍っていたのだろう。
しかし、それが分かったからと言ってどうする?
「……これはまずい状況だね」
トゥスさんがそう口にし、俺は頷く。
氷でなければライムに頼んで耐えることはできる。
だが、氷はダメだ。
氷はスライムにとっての弱点。
このままでは進むことはできない。
なら奥に魔法を放つか?
だが、見た限りでは敵がどこに居るか分からない。
そもそも魔物なのか、それとも人間なのか分からないわけだ。
このままでは対処ができないだろう。
「何かいい方法はないのかな?」
「難しいですね……氷が飛んできている以上、ライムちゃんに無理をさせられませんし」
それはみんな同じ意見なのだろう。
「いったん引き返すかい?」
それも手だろう。
しかし引き返したところで何かいい手が思いつくかと言われればそうでもない。
何か方法はあるはずだ。
体を温めつつ、進める方法……あることにはあるが……。
これをやると恐らくチェルに怒られることになるだろうな。
「俺が行く……いや、俺しか行けない」
そう、俺だけなら行ける。
それがどんなことを意味するのか分からない仲間達ではないだろう。
「魔拳!? キューラちゃん、バカな考えは――」
早速怒られてしまったが、ここで帰ってしまえば逃げてきたと呆れられてしまうだろう。
とはいえ、この先何があるか分からない。
だが、同時にここを攻略できれば……。
「これはチャンスだ……ここで帰ることは簡単だ……だけど、そうしたら彼女は二度と俺達に武器を作ってくれない」
実力主義であるこの土地で逃げるという事はデメリットだ。
戦略的撤退という言葉もある。
だからこそ、全部が全部とは言えないが……。
それでもいい事とは魔大陸では言いづらい。
「でも、キューラちゃん……ライムちゃんもいけないんですよ?」
「分かってる……少し走って何もなければ戻ってくる」
「危ない」
皆に止められているのは分かっていた。
無茶をするつもりだってのは十分理解している。
だが……。
「本当にそんなバカなことやるのかい?」
「ああ……そもそも、勇者の力を使わずに魔王を倒そうなんてバカなことを考えてるんだぞ?」
これ以上、彼女を悲しませるわけにもいかない。
当然死ぬつもりもなかった。
出来ると判断してるからこそ考えた手段だ。
「そりゃそうだ! 行ってきな屍はまぁ、拾えないけどね」
「分かってる、死ぬつもりなんてないから安心しろ」
トゥスさんの皮肉に俺は苦笑いをしつつ、目を閉じる……。
「精霊の業火よ、我が拳に宿りて焼き尽くせ!!」
詠唱を唱えると拳に熱がともる。
俺の切り札である魔拳だ。
これならあの氷のブレスもしのぐ事が出来るだろう……。
「それじゃ、行ってくる」
不安そうな仲間達を残し、俺は先へと進む。
先ほどよりもひんやりとした空気を感じることはなかった。
だが、目の前から予想通りではあったが新たな氷の息が放たれている。
これが本当に龍の息吹なのか、それとも別の何かなのかは分からない。
だが、それでも先に進まないといけないんだ。
鉱石は絶対に持ち帰って見せる。
そう強く思い、両腕を身を守るように交差させ俺は走り出した。
思惑通り魔拳の炎は氷を溶かしてくれた。
これなら進める。
魔法を唱えつつだと埒が明かないが……これなら魔力痛も起きる心配はなさそうだ。
その代わり、火傷を負った後でチェルが怖いけどな……




