439 静けさが広がる洞窟
前に夜目が聞く俺、続いてタンクであるクリエ、ヒーラーのチェル。
洞窟では不利なトゥスさんとしんがりにファリス。
この隊列で俺達は坑道の中を進む。
トゥスさんが後ろなのは混戦するであろう前ではなく、後ろから迫る敵を撃ち抜いてもらうためだ。
ファリスであれば小柄だし身軽だ。
トゥスさんも凄腕だし、そうそう弾が当たるなんてことはないだろう。
「……キューラちゃん、なにか見えますか?」
進む中、不安そうな声でクリエが訪ねてきた。
私は目を凝らし先を見るが……。
「魔物がいない、おかしいな……」
いくらロックイーターやジュエルイーターが居ると言ってもここまで魔物が居ないのはおかしい。
「ファリス……」
俺は後ろに居る彼女へと声をかける。
ここは魔大陸、神大陸の常識が通じるわけではない。
「おかしい、流石にこんなこと、ない」
「そうか……」
強い物がすべてであるこの大陸では魔物もそうだと聞いた。
しかし、ここまであからさまなのはないのか……。
で、あれば何か理由があるはずだ。
「心当たりは?」
「……ここ、魔物いない」
「それは分かってるだろ? まったくこのおチビは何を言っているのか……」
いや、彼女は何かを言いたいのではないか?
魔物はいない……つまり、ロックイーターなんていなかったという事だろう。
ならばなぜ、ここにはそれが居ると言われていたのか?
いや、元々はいたのではないか? 力を認められれば騙されることはないだろうとは言いづらいが……。
「あの人が嘘を言っているようには思えなかった」
「そうですね」
「うん……」
クリエとチェルも頷き肯定をしてくれた。
なら、何か理由があるはずだ。
魔物がいない……いや、気配すら感じない理由が……。
それは何なのか、考える必要なんてない。
「人か……人がこの坑道に住み込み、そして魔物を退治した」
「……それで魔物がいなくなった? ありえるのかな?」
「それだとおもう」
俺の言葉を後押しするのはファリスだ。
「魔物は人を恐れて逃げて行った。だからここ魔物いない……」
だとすると厄介なことになりそうだ。
こんなところを根城とするのなら野盗と相場が決まっているだろう。
「はぁ……、仕方がない」
進むしかない。
俺はそう判断しゆっくりと慎重に歩き始めた。
さて、人がいるという事は魔物相手とはわけが違う。
気にしなければいけないところだって違うわけだ……。
例えば罠。
魔物相手ならそこまで気にしなくてもいいが、人相手ならこの先には罠があると考えたほうが良いだろう。
そして暗がりの中を罠を見分けなければならない。
しかし、相手は恐らく魔族だろう。
という事は見える場所に罠があるとは考えないほうが良いだろう。
いや、罠なんだ……見える場所に置いてあるわけがない。
だが、神大陸であれば魔族じゃない人が多い。
だからこそ、暗闇なら見える場所に罠が張られていることは結構ある。
しかし、こっちは違う。
「皆罠には気を付けて進むぞ……」
「は、はい」
私の言葉におびえたのか、クリエは私の服をつまんできた。
「クリエ? それだと危ないぞ?」
「わ、分かりました」
いや、だから……なんで腕に巻きついてくるんだ……。




