438 坑道へ
初めて出会った魔物には困惑したが俺たちは順調に先へと進む。
どうやら町周辺にはそこまで強い魔物はいないらしい。
それどころかライムを連れているだけで魔物は寄ってこない。
「不思議な大陸ですね……」
そんな中、クリエがそう呟いた。
するとファリスは――。
「力こそがすべてだから」
そう答えを返す。
いや、そうは聞いてはいたが、まさか魔物までそうとは思わなかった。
しかし――。
「全部の魔物がそうとは限らないだろ? 油断はしないほうが良いね」
トゥスさんはそう言って辺りを警戒している。
「街の近くに居る魔物ほど臆病、離れればそうじゃない」
その答えに対しファリスはそう返す。
つまり、トゥスさんの言った通り、魔物全てがライムにおびえるわけではないという事だ。
「なら、まだ町の近くで休んだ方がいいかな?」
「いや、今進み始めたばっかりだ……ここで休んだら後でその分動かなきゃならない」
夜になれば魔物が活性化する。
夜目が聞く俺やファリスはともかく他の三人はそうではない。
暗くなる前に町には戻りたかった。
「それに、後で無理するよりも、ちゃんと休息したいしな」
何より今は疲れていない。
出発したところだし戦闘は避けれているからだ。
だが、後で戦った後は? 疲れているかもしれない。
その時に休めないのでは何の意味もない。
そう思い俺はチェルへと告げる。
「だから、今は少しでも前に進もう」
「分かった」
彼女は俺の判断に肯定し首を縦に振る。
まだこの大陸になれてはいないから強硬手段は危険だ。
いや、そうじゃなくても危険だが……。
とにかく警戒することに越したことはない。
だからこそ、進める時は進み、休める時はしっかり休んだ方がいい。
今は消耗が少ない。
何よりここで休めば今襲ってこない魔物たちも俺達が大したことがない冒険者だと思い襲ってくるかもしれないからな。
だが、無理はしない。
あくまで進めるだけ進む。
そう決め、俺達は前へと進む。
しかし、戦う事がないというだけで体力の温存が十分でき……。
「……ついたな」
坑道の前までは何の問題もなくたどり着けた。
クリエたちのためにランタンに火をつけ、中の様子をうかがってみると嫌なほど静かな場所であることが分かる。
「……ロックイーターがいるって話だが」
「ジュエルイーターぐらいは警戒しておいたほうが良いかもしれませんね」
ロックイーターの突然変異の事だ……。
たしか、取り込んだ宝石によって特殊な力を得るはず。
以前戦った時は炎を吐いていた。
強力な魔物であるそっちには会いたくはないが……。
「そうだな、警戒することには越したことはない」
恐らくここにはロックイーター以外にも何かいる。
それだけは間違いないのだから、警戒は怠らないようにしないとな。
「それじゃ進むのかい?」
「ああ……」
俺が頷くとチェルは俺が持っていたランタンを指さし。
「なら、それは私が持っておくね」
「頼む……」
両手が空くのは助かるし、なにより俺とファリスなら灯はいらないからな。
「ファリス、後ろを頼めるか?」
ロックイーターは地中をさまよう魔物だ。
どこから敵が来るのか分からない以上、夜目の効く俺とファリスで前後を固めたほうが良いだろう。
何より二人とも前衛だ。
「うん!」
俺の意図を汲んでくれたのだろう、彼女は笑みを浮かべ頷いてくれるのだった。




