432 シュター武具店
案内されたのは大きな店だ。
どうやら工房も一緒になっているらしい。
しかし……まぁ……中に入ってみると武器が一つも並んでいない。
これでよく武具店をと思ったのだが……。
「武器なんて並べた日には奪って暴動を起こす馬鹿が居るからね、こっちじゃ並べないのが普通だよ」
彼女はそう口にし、納得せざるを得なかった。
確かにそうなっては面倒だ。
だから武器を並べないというのには納得が出来た。
「それで……誰の武器が欲しいんだい?」
そうは言われてもな……。
「クリエは剣を持ってるし、俺は体術、トゥスさんは銃だし……」
俺は頭の上に乗ってきたライムへと目を向けながらそうつぶやいた。
ほかにもファリスは魔法の鎌だし、チェルに至っては武器の扱いは苦手そうだ。
「……あれ? 武器必要か?」
改めて考えるとあまりいらない気がする。
「キュ、キューラちゃんの武器が必要じゃ?」
するとクリエが苦笑いをしながらそう言ってきた。
いや、そうは言っても……。
「俺は体術だぞ?」
「そうは言っても拳で硬い魔物や鎧を殴るわけにはいかないでしょ?」
「そうです! チェルちゃんの言っている通りです!」
とはいっても武器は邪魔になる……。
ましてやこの世界ではメリケンサック的な武器はあまりないんだが……。
「なるほど、あの炎は武器がなかったんじゃなくて、珍しいけど体そのものが武器なんだね……ふむ、体術を使う奴は少ないし、武器としてもあまり作られたことはない……」
「いや、そうはいってもだな……」
武器、下手に持つと邪魔なだけなんだよな……。
俺の意志とは別に話は進んでいくのだろうか? 店主は俺の手へと触れてきた。
「面白い、面白いね……ほかになんか特技があるのかい?」
「……あんたが言ってた炎だけど、そいつを……魔拳を使うんだ。魔法を拳にまとわせてね、良く火傷する」
「トゥスさん!?」
なんでそういう事を言うのだろうか?
ここで魔拳が使えるなんて言ってしまえば噂が……俺の貴重な必殺技なのに……。
「なるほど、ならあんたの精霊石で持続的に回復させる効果をつけると良いかもしれないね……そっちのお嬢ちゃんは神聖魔法の使い手だろう?」
「話が速いね。いい鍛冶師だ」
ん? 今なんかさらっと凄い事を言ってなかったか?
「ただ高くつくよ? それに武器を使う目的は何だい? ただ生き残る為ってんなら面白くない、作る気はないよ」
「……武器を使う目的? そんなの……」
あるわけがない。
俺の目的はあるが武器にはこだわりがないんだからな。
「そんなの魔王、殺す」
そんな事を考えていたらファリスがとんでもないことを口にする。
彼女の顔は陰っていて見えないが明らかに怒っているのが分かってしまった。
「あの変態を駆逐する……キューラお姉ちゃんが、魔王を殺して、新しい魔王になる……」
「はぁ!? 今代は最強と言われてるんだよ? それがこの嬢ちゃんが? 確かに魔力の質は良いみたいだけど……奴は他の魔族を遥かにしのぐ魔力を持ってるんだよ?」
そう言えば魔族は女性の方が強いんだったな……。
今代はファリスの件もあるしロリコンの男だとは思うが……それほどまでの魔力を持ってるのか。
だが……魔王を倒すというのは間違いではない。
「武器の話は置いておいても魔王は倒すさ……クリエのために」
「ああ、勇者の奇跡ね……全く神大陸の奴らはそんなまがい物の力に……」
「いや、奇跡は使わない。倒すのは俺達だ……奇跡なんて使わず、勇者の犠牲なんて払わずに人間の力で奴を倒す」
俺は彼女の言葉が終わる前にそう言い切った。
これはこの旅をの中でできた大事な目的だ。
変えちゃいけない……いや、変える必要もない目的なんだ。
「………………本気なのかい?」
「ああ、本気さ……そして、神大陸の貴族や王の連中に見せつけてやるんだ……勇者の奇跡なんて言う、まがい物の力じゃなくても人は困難を乗り越えられるんだってな」
俺の言葉に同意したのだろう、ライムは頭の上でぽよぽよと跳ねる。
それが妙にくすぐったかった……。
だが、いい気持ちだ。
「キューラちゃん……」
不安そうな声が聞こえ俺は彼女の方へと目を向ける。
そこにはただの少女がいる……残酷な運命を背負ったただの少女が……。
「大丈夫だ、もう迷わない……もう、誰も殺させない」
俺はそう告げる。
一人では無理だ……だけど……。
「そのための仲間がいる……そのための力もある……だから大丈夫だよ、クリエ」
そうだ。
俺は一人じゃない……それを確認できただけでもこの武器屋に来たのは良かったのかもしれないな。




