430 強さがすべての世界
相手はファリスの鎌を当てられ怯んだからだろう……。
俺の希望通り去ってくれた。
しかし問題はある。
これから先、こんなことは腐るほどあるだろう。
何せここは魔大陸だ。
「どうするんだい?」
青い顔をしているトゥスさんにそう尋ねられ、俺は腕を組む。
宿に泊まりたい……だが、普通に泊まれるのか?
いや、泊まれないなんてことはないだろうが……。
「取り合えず宿には行こう」
「そうですね……」
クリエはいつの間にかライムを抱いていたが……。
ライムよ……なんかいつの間にかそこが定位置になっているような気がするのは気のせいか?
ちょっとうらやましい、じゃなくて……。
「チェル、大丈夫か?」
「うん……平気」
襲われかけていたチェルはどうやら問題はなさそうだ。
仲間を連れて宿へと向かう事にした俺達は町の中を歩く。
すると物珍しいのだろう……俺達の方へと好機の眼が向けられていた。
しかし、そんな中でも魔大陸らしさというのは垣間見えた。
買い物客だ……。
客の中には店員を脅し、商品を無償で奪っていくのも見かけられた。
それを見た別の客が同じように店員を脅そうとすると今度は店員が客を脅している。
この大陸は無茶苦茶だ。
「へへへ……なぁどこに行くんだよ?」
そんな声をかけられたのは俺が店でのやり取りを見ていた時だ。
またか……そう思いつつ、ため息をついたところ……。
「キューラお姉ちゃん」
ファリスが服の裾を引っ張ってきた。
一体どうしたのだろうか?
気になっていると彼女は……。
「ここら辺は人が多い、だからあの人を痛めつけて?」
「はぁ!?」
何を言い出しているのか?
そんなことできるわけないだろう! そう言いかけた俺だったがこの子が何の考えなしにそんな事を言うはずないと思いなおした。
何か理由がある……。
その理由にたどり着くのはそう時間はかからなかった。
ここは魔大陸……奪い合いの世界だ。
なら……相手を痛めつけ奪えばいい……。
ちょっと気が引けるが……郷に入っては郷に従えという言葉もある。
「遊びたいのか?」
俺は声をかけてきた屈強な魔族の男へと尋ねる。
見ればこの男が話しかけてきたからか遠巻きに見ている人が多い。
それも、興味があるというより残念そうだ。
つまり、自分が声をかけたかったが、こいつが話しかけたから話しかけれないのかもしれない。
「へへ、話が早いじゃねぇか……」
ニタニタと笑う男に対し俺は溜息をつき……。
「なら勝負と行こうか、俺が負けたら俺を好きにすればいい、お前が負けたら有り金全部おいていけ」
俺がそう言うと男は一瞬目を丸め大笑いし始めた……。
腹を抱えて嗤うさまはイラっとするが……まぁ、見た目から判断してるんだろう。
なら……目にもの見せてやればいい。
「おい、嬢ちゃん……良いぜ最初に一発サービスしてやるよ」
彼はそう言うとまるで警戒するそぶりも見せない。
これ自体が罠の可能性もある。
だが……。
「そうか? 後悔しないか?」
俺はそう聞き返すと彼はさらに笑い始めた。
「なら、安心した――――!!」
別にフェアを求める必要はない。
だからこそ、俺は大地を蹴りこぶしを握る。
疾風の型の体術版だ……。
「おいおい! 武器もなしかよ……!!」
だが、彼はその動きさえ求められると思ったのだろう……。
同じ魔族の血が流れているというのに魔法は警戒しない。
実におろかだ……。
「グレイブ!!」
魔法を唱えると彼は目を丸め――。
「穿て!! グレイブ!!」
魔法で対処をしてくる。
たったの一瞬だ……だが、本当の隙は生まれた……ここだ!!
「――っ!!」
俺は身体をひねり、全身のバネを使い……体重を乗せた渾身の一撃を奴の腹へとお見舞いしてやる。
すると男は身体を曲げ……。
「っ!?」
苦し気に悶える。
まだだ……。
「グレイブ!!」
やるなら徹底的に!! 魔法を足へと向け撃ち込んだ後、更に回し蹴りをお見舞いしてやると男はその屈強な体をぐらりと揺らし倒れた。
「悪いな……一発じゃなかった」
俺はそう言うと別についてはいないが両手の砂を落とすような仕草をした。




