429 魔大陸
魔物は俺へと狙いを定めると襲って来ようとその大きな口を開ける。
だが、次の瞬間、その口から飛び出してきたのは大きな岩だ。
そう……先ほどはなった魔法グレイブは奴の背後から狙っていた。
「よし!」
大分……この魔法も物になってきた。
俺はそう実感しながらこぶしを握る。
「お、おい嬢ちゃん! 危ないぞ!!」
「へ?」
船員に叫ばれ俺は首を傾げた。
しかし、すぐにその原因を理解した。
先ほど倒した魔物は後ろから攻撃したわけだ。
つまり、倒れてくる方向も俺の方というわけで……。
「っ!? グ、グレイブ!!」
俺は慌てて再び魔法を唱え、魔物を向こう側へと吹き飛ばす。
大きな波と飛沫が立ったことに気が付いた俺はほっと溜息をつき……。
「あ、危なかった……」
誰かは分からないが、教えてくれて助かった。
というか……海の上で逃げ場が少ないんだからもう少し魔法には気を付けないといけないな。
「……お嬢ちゃんすごいじゃないか!!」
そう言って近づいてきたのは船長だ。
彼は俺の肩をパンパンと叩くとガハハと笑う。
「い、痛いって!?」
ちょっとは加減を考えてほしい。
そう思いつつ、訴えると……。
「いやぁ、助かったぞ……魔物がまた出たら頼むぞ」
いや、バリスタがあるじゃないか……。
俺はそう思いつつも頷く。
すると――。
「キューラお姉ちゃん!」
ファリスが胸に飛び込んできた。
「ど、どうした?」
俺は彼女の頭を撫でてやりつつ、戸惑うと……不穏な気配を感じる。
なんだろうか?
そう思って後ろを振り返るとなぜかむっとしているクリエの姿があった。
「クリエさん?」
「いまの、あぶなかったです」
感情というのがなくなったかのように訴えてくる彼女に対し、俺は苦笑いを浮かべ……。
「その……ごめん」
としか言えなかった。
海の魔物を倒した俺達はそのまま波に揺られ魔大陸を目指す。
途中何度か魔物に襲われはした。
しかし、最初の襲撃ほど危うい場面はなく……。
「嬢ちゃん達、ついたぞ」
船員のその言葉で俺達は地上へと降りた。
「もう……船はこりごりだ……」
がっくりと項垂れているのはトゥスさんだ。
彼女は船に乗っている間、ずっと体調不良だった。
まさか、あそこまで船に弱いとは思わなかったよ……。
そう思いつつも、俺は彼女へと水袋を渡す。
「気遣いありがたいけどね、今はその臭い水を飲んだだけで吐きそうだ」
酷い言われようだが、確かに水袋の水は臭いんだよなぁ。
コップさえあればライムにどうにかしてもらえるんだが……。
「まずは宿を探すか……」
俺はそう言いながら仲間達へと目を向ける。
クリエにトゥスさん、ライムにファリス。
って……あれ?
「チェル?」
どこに行った?
そう思ってあたりを見回していると彼女は丁度船を降りたところみたいだ。
だが、そこには一人の男が居て……。
「なぁ、嬢ちゃん良い乳してるな……どうだよ、今から俺と」
これがこっちの大陸のナンパか? えらい下心が丸だしなナンパだな……。
とにかくチェルは助けを求めてこっちを見ている。
あのナンパ男をどうしかしないとな……。
そう思いつつ、俺はチェルの方へと近づく。
「連れになんか様ですか?」
男の姿でこう言えたらよかっただろう。
そう思いつつ精いっぱい声色を低くし唸るように言ったつもりだった。
「なんだ? こっちのは……胸はないが顔は良いな。お前もどうだ? 一緒に良い声で泣かせてやるよ」
「……うわぁ、ないわぁ」
気持ちわりぃわぁ……。
その言葉しか思い浮かばなかった。
俺の態度が気に入らなかったのだろう、彼は腰につけていた剣を引き抜こうとするが……。
その時にはすでにファリスの鎌が彼の首にかかり、クリエの剣も背中へと突きつけられているようだ。
「な、なななな!?」
「悪いけど、こっちは冒険者なんだ……そう簡単にやられやしない」
俺はそう言って威嚇をする。
すると男は汗をたらし始め……。
「後悔するなよ」
「しないさ……」
まぁ、する必要はないよな。
「そのまま失せろ」
俺はもう一度声を低くし言うが、やはり聞こえるのは可愛らしい声だった。




