428 海上の魔物
水生の魔物は恐ろしい。
スライムやマーメイド……。
とにかく出会ったら逃げるしかない。
まともに戦っても勝てる自信はある。
だが、それはあくまで……。
「ぅぅ……ダメだ、動けない」
仲間が万全な状態なら……の話だ。
現在一人……トゥスさんは動けない状態だった。
これじゃ戦うことはできない。
頼むから魔物は出てこないでくれよ?
そう願うが無理がある。
広い海に魔物が一匹もいないなんてことはないんだ。
その証拠に……。
「魔物だ!!」
船員たちは大声を上げ、戦闘の準備を始める。
まずい!! そう思い俺もこぶしを握ると……。
「安心しな!!」
船員の一人はそう言って大きな槍のようなものを担いできた。
あれは一体……。
「海弓ですね」
「なんだそれ?」
聞いたこともないぞ?
俺が疑問に思っていると……船員達は甲板の両脇にかけられている布を取り外す。
そう言えばあれは何だったんだ?
その疑問はすぐに判明した。
そこにあったのは……。
「バリスタか!」
巨大な弓、バリスタだ。
「ばり、すた?」
俺の言葉に対しチェルは首を傾げ……ファリスもまた怪訝な顔をする。
「あれは海弓……魔物を退治するためのもの、海の魔物……大きいから」
「え? あ……そうなのか」
知らなかった……。
だが、バリスタで間違いはなさそうだ。
「だが……あれがあれば……」
出てきた魔物に対抗するのに有利かもしれない。
近づかれさえしなければ……。
そう思っていると船員の一人が俺の肩を叩く……。
「もし近づいてきたら頼むぞ、嬢ちゃん」
「……分かった」
やっぱり、俺が考えた通りあの武器はある程度の距離が必要だ。
「まぁ、敵が近くに来る前に見つけられた! 安心しな」
そう言った船員はそう残すとバリスタの方へと走っていった。
船員はバリスタを操作し、魔物を狙う。
初めて見るが……巨大な矢は見事魔物を捉え、撃ち抜いた。
慣れている……。
これだけ正確に狙えるまでどのぐらいの鍛錬が必要なのだろうか?
大きな的と言っても大雑把な位置を狙っても意味がないだろう。
俺は素直に感心した。
すると船員は俺達の方へと笑みを浮かべた。
まだ若い船員だ。
「……凄いな」
俺はそうつぶやいた瞬間。
「――っ!!」
それに気が付いた。
矢が命中した魔物は目の色を変え、船員へと狙いを定めていた。
「馬鹿野郎! 殺すまで目を離すな!!」
どこかからそんな罵声が聞こえた。
俺の心臓は跳ね……動きがゆっくりに見える。
若い船員は自分に起きようとしているそれを見つつ恐怖に顔をゆがめていた。
このままでは船は沈む。
だが、それと同時に彼は死ぬだろう。
彼だけじゃない……だろう。
だが、俺の脳裏に思い浮かんだのは……カインが死ぬ場面だった。
私はもう……壊れちゃうよ。
心の底からそんな言葉が聞こえた。
彼女が……もう一人の俺がそう言っているのだろう。
だが……。
「っ!! ライム! 船を守れ!!」
俺は使い魔にそう命令を下すと魔物を睨んだ。
ライムは俺の命令通り動こうとしてくれているのだろう。
海へと向かい移動を始めた。
海の水でもスライムにとっては変わらない。
真水に変えることだってできるんだ。
つまり、巨大化をして船全体を守ることだってできる。
だが……その前に時間を稼がなきゃならない。
「グレイブ!!」
俺はライムが去って行くと同時に魔法を唱える。
岩の弾丸は魔物へと向かう。
だが、見えるように撃ったそれはあっけなく避けられた。
それでいい。
その位置だ!!
「グレイブッ!!」
再び魔法を唱える。
だが、今度は死角を狙う。
するとそれには反応できなかった魔物は魔法が来た方向へと目を向けた。
どうやら自分に魔法を撃ってきた人間を探しているみたいだ。
しかし、海から放たれたそれを操る人間は見つからなかったようで……。
先ほど魔法を討った俺へと目を向けてきた……。




