427 意外な弱点
海に出て数日……。
俺達はようやく甲板へと顔を出していた。
海の風が気持ちいい。
そう思っていた。
しかし、俺の視界の中には……。
「だ、大丈夫か?」
そこには項垂れる女性の姿が見えていた。
「あ、あんま喋らせない方がいいよ」
そう言うのはチェルだ。
彼女は水を持っており、これから彼女にそれを飲ませようとしているのだろう。
「なさけない」
あきれているのはファリスだ。
彼女は何度も溜息をついては彼女へとその目を向けていた。
やはり、心配なのだろうか?
そう思っていると……。
「キュ、キューラちゃん……その、さっき放っておいてほしいって言ってましたよ?」
クリエはなぜか怯えながらそう言った。
そう言えば背中をさすろうとして思いっきり睨まれてたな。
その方が楽になるだろうに……。
そう思っていたのだが……彼女にとっては余計な事だったようだ。
「船に弱いエルフか! まぁエルフだしな!!」
ガハハハハハっと豪快に笑う船員に向かって今にも銃を突きつけそうな雰囲気を醸し出す彼女だったが……。
すぐにその気配は消えてしまう。
よほど酔いが酷いみたいだ。
「…………」
俺はそれを見てひきつった笑みを浮かべる。
そう……。
トゥスさんにこんな一面があったとは思わなかった。
エルフだというのに乱暴な口調、森を愛さない。
その上、酒、タバコ……ギャンブルと色々と来い存在である彼女は見た目はエルフだ。
肌は白く、美しいと言ったらそう取れるのだろう。
だが……まるでダークエルフと言ってもいい彼女には、いやエルフは……。
「船に弱かったのか……」
彼女は船酔いが酷いらしい。
そんな意外な弱点を見つけ俺達は固まっていたのだ。
「仕方がねぇだろ? エルフってのは森の民だ……元々海の上じゃ体調が悪くなんだよ」
そう言うのは先ほどの船乗りだ。
「そうなのか?」
俺は初めて聞く言葉に驚きつつ、クリエたちに聞く。
すると彼女たちは一様に首を横に振った。
つまり、分からないという事だろう。
いや、まぁ……そうだよな?
普通に考えてエルフイコール海に弱いなんてこと思いつくはずがない。
「トゥスさんは知ってたのか?」
俺はそうつぶやくと彼女は恨めしそうな顔で睨んできた。
ああ、何となく言いたいことが分かる。
知ってたらこんな船なんかに乗っていないよ!! とでも言いたいんだろう。
つまり……。
「もしかして、船乗りさん……それって船乗りの間では有名だったり……」
「おう! その通りだぜ! 大体エルフは皆酔っぱらっちまうな」
ああ……うん、そういえば神大陸は陸続きだし、よほどの事が無ければ船に乗る事なんてないよな……。
そして、エルフは魔大陸にはいない種族だ。
移住した人はいるかもしれないが……。
「海の上なんて……頭のおかしいやつが行くもんだ」
青い顔をしながらそんなこと言う彼女は余裕が無そうだ。
だが……頭がおかしい人がというのは関係ないんじゃないかな……。
そう思っていると……。
「あ、頭がどうとかはあまり関係ないと思いますよ?」
クリエが苦笑いをしながらそう突っ込んだのだった。
それに対し何か言い返してくる。
そう思ったのだが、彼女は何も言わずにがっくりと項垂れてしまった。
どうやらこれ以上何かを言う気力がないようだ。
こ、こんなことで無事魔大陸につけるのだろうか? 少し不安になってきた。




