425 クリードへ行くまで……
乗り込むのは夜だと言っても町の外。
出来れば昼間に移動したいのが本音だ。
だが……。
それは今やめておいたほうが良いだろう。
その理由は簡単だ。
昼間は騎士たちも行動をする。
危険なのだ……。
だが、同時にこうも考えるだろう……。
夜間に移動する可能性もある、と……。
ならなぜ夜に出発をするのか?
答えは簡単だ。
夜間に移動するかもしれないが、そんな事をするはずがないと思うからだ。
何故ならこっちの護衛対象はクリエだが……当然夜目は効かない。
俺とファリスは夜目が効くが他の仲間は違う。
ライムだって皆を守れるわけじゃ無い。
レムスが居れば話は別だったかもしれないが……今はいない。
魔物の中には夜目が効くやつもいる……。
とするとわざわざ危険な夜に移動するのは悪手でしかない。
「……というわけだ……」
「なるほどね……でも大丈夫なのかい?」
大丈夫か? と言われると正直難しいと言ったほうが良いだろう。
「移動しないと考えても、刺客を放ってる可能性はある」
そう、俺と同じように夜目が効くであろう混血や魔族を使えばいいだけだ。
だが……。
「そうだとしても襲ってくる人数を減らせる。暗殺者が恐ろしいのは来ないと思っているからこそだ……」
警戒をして忍び込める場所を与えなければ対策もできるはずだ。
いや、魔法で暗闇に紛れるなんてものがあれば分からないが……。
「そうかい……それで?」
トゥスさんはそう言うと一転へと目を向ける。
「それはどう説明するんだい?」
指を差した先に居るのはライムだ。
プルプルと震えているスライムは暫くかまってあげれなかったからこそ、構ってもらえ嬉しいのか揺れている。
流石に食事は与えていたが……。
「ライムがどうした?」
「いや、なんで水を与えているんだい?」
スライムのライムは水を与えれば大きくなる。
だが、その分移動速度は落ちるだろう……。
しかし、これには目的があった。
「これだよ」
俺は薬草をライムへと食べさせた。
「……なるほどね水薬……ポーションかい」
そう、ポーションをライムに作ってもらおうとしたわけだ。
何故そんな事を考えたのか?
答えは簡単だ……実はこの部屋に薬草学の本があった。
そこにはさまざまな薬が書かれていた。
材料は特別なものはなさそうだったが、俺は薬師ではない。
当然調合なんてできるわけがなかった。
だが、同時にライムであれば……。
「下手な薬師よりはいい薬が出来るはずだ」
「そうだね、だが、当然効果は落ちるよ」
ああ、分かってる。
それぐらいは分かってるさ……。
だが、あるとないのとでは全然違う。
チェルの魔法だっていつだって頼れるわけじゃ無い。
しかも、これから向かうのは魔大陸。
力こそがすべての土地だ。
奪われないために戦わなければいけないし、奪われるわけにはいかない。
そのためにはこれからも魔拳を頼るかもしれない。
そして、もし魔法が失敗した時のことも考えてなければいけないんだからな……。
この薬だけは作っておきたかったんだ。
「ライム頼むぞ……」
俺は薬瓶を取り出し、ライムに差し出す。
すると薬草を溶かしたライムは約便の中に触手の様に体を伸ばし自身の身体を絞っていく……。
緑色の液体が瓶の中に入っていき……。
これでやけど治しの出来上がりだ。
「助かるよ、ライム……」
俺はライムの頭を撫でてやりながら、すべての瓶にいれ終わるのを見守ってからリンゴを渡すのだった。




