42 眠り姫
旅館に戻ったキューラ達。
しかし、クリエは目を覚ますことは無く……悪夢にうなされる。
そんな彼女を見てキューラはやはり、彼女を守る従者が必要だと考えるのだった……
まずい……起きるまでとは思ってたんだが――眠気が――
「――っ!?」
時折びくりと身体を震わせつつ、俺は彼女が起きるのを待つ。
しかし、なかなか起きないな……日もすっかり落ちてしまった。
「チェル達も部屋に来ないって事は……まだ帰ってないのか」
あれからどの位、時間が経ったのかも分からない。
ただ、クリエは何度も夢にうなされている。
その度に聞こえる寝言……それを聞くたびに彼女は悪夢を見ているのだと予想できた。
悪夢の内容は分からない、ただ、最初の何でそんな事を言うのか? という疑問……予想には過ぎないが、クリエは昔誰かに酷い事を言われたんじゃないか?
そんな辛い時の事を夢見て……起きた時に万が一俺が居ないと勘違いをしたら彼女は泣くだろう……
だが、そんな事はさせない。
今回の彼女の怪我は俺の所為だ。
それも俺が彼女なら例え戦う事になっても大丈夫だと思っていたからだ。
だが、考えは甘かった。
実際に彼女は撃たれてしまい、その所為で今――
「――ぅ……くそ、眠気が……」
再びガクンと視界が揺れる。
おかしいな、いくらなんでも眠すぎる。
「――――」
そう思った直後、俺はクリエの寝るベッドに顔をつけ、瞼を閉じる。
もう少しだけ……もう少しだけ、起きて――
そう思いつつも俺の意識は闇の中へと落ちて行った。
そこには見覚えがあった。
誰のものか分からない墓――
夢の住人である魔族の男――
彼は俺を見るなり、口角を上げその歯をむき出しにして笑う……
だが、声だけは聞こえない。
しかし、悪い気はしない笑い方だ。
どこか褒められてるような、でも呆れられている様でもある。
「お前は一体なんなんだ? あの魔法は――!!」
「――――――」
だが、ここが夢のせいなのか、男の声は聞こえず。
俺の声だけがその場に虚しく響く――
すると、男は途端に不機嫌になった様子で俺へと詰め寄り……左目へと指を向ける。
「な、なんだよ……」
「――!! ――――!!」
何かを怒鳴っているようだが、全然聞こえない。
「…………いや、悪い、聞こえない」
とりあえず謝った俺に深いため息をついた男は墓の方へと去って行く……やっぱりあの墓はあいつのなのか?
だとしたら、アイツは死んでて俺と何か繋がりがあって……それで夢や現実に現れた?
いや、とは言っても今までそんな事なかったんだしな。
何かきっかけになる事があるのか? って!? それよりこの場所に来たって事は俺は寝ちまったんだ!
早く戻ってやらねぇと――
そう思い俺は墓とは正反対の方向へと向く――すると、左目がほのかに熱を帯びた。
「―――――よ、――――いるぞ」
「……へ?」
その言葉が聞こえたことに呆けた声を出した俺だったが、すぐに景色は消えて行き――
「ま、待て! まだ聞きたい事が!!」
焦りつつ男の方へと向き直ったのだが、そこはもうすでに暗闇だった。
「……ん?」
俺が目を覚ますとすっかり夜になっていた。
月明りで辛うじて周りが見えるぐらいだ。
俺はクリエの様子を確かめてみるが、彼女は……まだ起きてはいない。
本当に無事なのだろうか? そんな不安がよぎる。
そんな事を考えていると彼女の顔が再び歪み俺は――何も考えず彼女の頬へと触れる。
「んぅ……」
「…………」
クリエは少し声を出すと何故か穏やかな表情へと変わり――
「……お、俺はなにをやって……」
俺は自分がやっていた事に驚きつつ、慌てて手を引っ込める。
すると――
「……ぅ……?」
クリエの瞼がゆっくりと開いて行き……
「クリエ?」
俺は彼女の名前を呼ぶ……すると彼女は此方の方を向き――
「キューラちゃん……良かった無事だったんですね?」
「……っ!」
震えながらそう言う彼女を見て俺はただただ情けなかった。
青い顔をしつつ無理に作った笑顔……彼女はただの女の子で間違いない。
なのにそれなのに……勇者であろうとしている。
一方俺は何だ? 従者……だ?
「途中で……声が聞こえなかったので」
そう言っても結局はクリエを守ることは出来なかった……
……例えドールと言う魔法があったとしても、彼女が絶対に安心できるとは限らなかった。
「ごめん……俺がもっと良い作戦を立ててたら、クリエを危険な目には……」
こんなんじゃ駄目だ……
「キューラちゃん?」
「俺は絶対に約束を守って見せる……クリエを死なせなんかしない……」
その為には彼女にこの人なら大丈夫だと信頼をしてもらわないといけない。
だけど、俺だけでは彼女は心配をしてしまうだろう――
「だからクリエ、話があるんだ」
「…………」
彼女は俺の言葉を聞くと不安そうな顔を浮かべる。
本当なら、こんな旅辞めよう、そう言ってあげたいが、きっと彼女はそれを拒否するだろう。
だから、これからするのは大事な話だ――
「チェル、カイン……そしてトゥスさんを君の従者にしてくれ、彼女達はきっと君を守る為の力になってくれるはずだ」
クリエの個人的な意見では恐らく周りは女性で固めたいのだろう。
だが、チェルを引き入れるにはカインが必要だ。
恐らく彼女一人では従者になってはくれないだろう、例えカインが良いと言ってもだ……
じゃなければ危険な旅についてくるような事はしないだろうからな。
「………………」
だが、月明りに照らされた女性は俺の提案を聞くと不安そうな顔から変えず、黙り込んだ……