419 クリードへ向けて
街を出た俺達は山を下る。
目的はクリードだ。
そこまで行けば……。
きっとここと同じように食事をとれるはずだ。
それに魔大陸に向かう術だって……。
今の状態では神大陸から出られないかもしれないからな。
何せ俺達は世界に逆らった反逆者。
奴らとしてはここから逃がしたくはないだろう。
「キューラ……」
トゥスさんに呼び止められた俺は振り返る。
すると彼女は真剣な顔をしていた。
一体どうしたというのだろうか?
「王様を信じるんじゃないよ」
それはクリードの王って事か?
まぁ、確かに彼にも建前という物があるだろう。
それがある以上表立って行動するには制限がかかるはずだ。
勿論、それだけじゃない。
彼は王だ……。
となれば民を守らなければならない立場。
つまり、優先するべきは俺達ではない。
自分の国を支える民を彼は優先するだろう。
おそらくはそう言った人だ。
「分かっているさ」
だが、俺は彼を信じたい。
すべて何とかしてくれるとは思わない。
しかし、魔大陸に渡る術を彼は持っているはずだ。
それさえ、それさえ手に入れる事が出来れば……。
「今は他に頼る場所がない」
俺はそう言うと仲間たちは不安そうな表情を浮かべた。
だが、そう悲観することはない。
「大丈夫だって」
そう口にすると不思議とそう思えてくる。
そんな事を考えているとトゥスさんは大きくため息をついた。
「楽観的だね」
「そう言ってもらってもいいさ」
俺は彼女の呆れた態度に笑いながら答える。
こんなところで悲観的になっても仕方がないんだ。
俺達の目標はクリエを助ける事。
そのためにこんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
「そろそろ山を抜けれそうですよ……結界もないでしょうから魔物も」
「ああ、皆気を引き締めて行くぞ!」
クリエの忠告に俺は頷きそう答えた。
すると緊張した表情を浮かべる少女が一人……チェルだ。
彼女はぎゅっと拳を握り微かに震えていた。
無理もない。
カインは魔物に殺されたも同然だからな……。
山を下り、開けた場所へと出た俺達は前を進む。
そこにあるのは街道じゃない。
当然魔物だっている。
あのゴブリンはいないだろうが……。
もしかしたら街道から外れた場所で非道な実験をしている奴らが居るかもしれない。
そう思うと安心できる場所なんてなかった。
俺には守らなければならない者がいる。
こんなところで立ち止まっているわけにはいかない。
そう思っても、そう願っても……何が起きるかは分からない。
そして、その時に対処できないのでは意味がない。
だからこそ、俺は警戒をしていた。
今度こそあんなことにならないように……。
もう犠牲なんていらない。
この旅を始めてから長らく犠牲なんて出なかった。
だが、皆と別れてからあの様だ。
俺にはまだ力が足りない。
俺は転生者だが、ラノベとかに会ったような特別な力はない。
だからこそ、俺自身がもっと強くならなくちゃならない。
憎しみや恨みでじゃない。
守るために……自分の意志で……!
「キューラちゃん」
俺がそう思っているとチェルの声が聞こえた。
彼女の方へと向くと彼女は微笑んでいた。
一体どうしたというのだろうか?
気になっていると……。
「そんなに気を張らないで……疲れちゃうよ?」
どうやら、俺は彼女に気を使われてしまったみたいだ。
申し訳ない。
そう思いつつ……。
「そう、だな……分かったもっと肩の力を抜いておく」
そう答えたのだった。




