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416 別れの言葉

 さて、この町にヘレンたちを置いていく交渉は出来た。

 後は本人たちにちゃんと告げないといけないな。

 本当は魔大陸へと連れて行きたい気もする。

 だが、あちらは本当に力だけの文化だ。


 もし何かあったらと思うとイリスはまだともかくヘレンは連れていけない。

 イリスはまだ精霊石に関する技術がある。

 だが、ヘレンには何もない。

 もし、俺達が負けたりした後は……。


 考えたくもないが、慰み物にされるのが落ちだろう。

 だから、彼女は置いていく……。

 とはいえ、一番大きな理由は当然ある。

 イリスもヘレンも戦いに関しては素人だ。

 二人とも体力もない。

 無理に連れて行くのはできないことはない。


 だが、そうなれば当然リスクがある。

 安全とは言えないのだ。

 お互いにデメリットしかない。

 勿論メリットがゼロというわけじゃ無いが……。

 それでも見過ごせないデメリットがある以上、このまま連れて歩くのは良くない。


 俺は頭の中でそう自分に言い聞かせながら宿へと戻る。

 するとヘレンとイリスは出迎えてくれた。

 さて、ちゃんと話さないとな。

 俺は皆の顔を見回し頷くと椅子に座る。


「二人とも聞いてほしい」


 俺の言葉に真剣な話だと理解してくれたのだろう。

 黙って椅子に座ってくれた二人に感謝しつつ……。


「ヘレンとイリスはこの町に残ってくれ」


 まずは理由は言わず、はっきりと口にした。

 当然、むっとした二人には申し訳ないとは思っている。


「すまない、だがここには魔物は入ってこない、だが奴らがここを死の山というほどだ……安全なんだ」


 そう、重要なのはここが安全かどうかだ。

 そして……。


「二人とここまで来て分かったことは体力がない事だ……これ以上旅を続ければ思わぬ怪我につながる可能性もある」


 そして、そんな状態で連れまわせば変な病気を持ち死に至るなんてこともあるだろうが、それはあえて口にはしなかった。

 する必要はないと思ったからだ。


「でも!」


 納得いかないと言った風な表情で詰め寄ってきたのはイリスだった。

 意外だとは思ったが、よくよく考えてみればそうでもない。

 彼女はヘレンのいた町からずっと一緒だった。

 だから裏切られた気持ちになったのかもしれない。

 だが……俺は彼女たちを裏切ったわけではないんだ。


「俺達はどうにかして魔大陸に渡って魔王を倒す。そんな危険な旅に君たちは連れていけないんだ……」


 あちらは力こそ正義と言った危険な大陸だ。

 それさえあれば安全と言っても良いだろうが……。

 現時点で俺達にそれだけの実力があるかは分からない。

 高をくくって彼女たちを連れて行って想像通りになってしまうなんてことだけは避けたいんだ。

 分かってくれとは言えない。

 彼女たちにだって考えがあって俺達の元へと来てくれたんだ。

 だから……。


「君たちを……クリエの理解者を失いたくはない……だから、こうやってお願いしてるんだ」


 そう俺が出来るのはお願いだけだ。

 それ以上の事は彼女たちが考えるしかない。

 そう思っていると横からトゥスさんはため息をついてきた。


「甘すぎるねキューラ」

「……ああ、それは……分かってる」


 こんなことを言ってもついてくる強く言われたら俺は拒否できないだろう。

 だからこそ、甘いなんて言葉を使ったのは分かる。

 それでも、俺は――。


「お願いしかできないんだ」


 情けない話だ。

 彼女の理解者を得たのは良い。

 だが、それを守ってやるだけの実力はまだないだろう。

 しかし、魔王を倒さなければ俺達の明日はない。

 そうなれば当然仲間たちにだって危害が及ぶだろう。

 それを防ぐために……。

 少しでも安全な場所に居てほしい。


 それは俺のわがままでもある。

 そして同時に奇跡なんて使わず魔王を倒す……。

 誰も成し得た事のないだろうことをするにしては非情になり切れないのだ。

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