413 紅い瞳の少女
両目が赤くなった俺はその後、体調に変化などはなかったがとりあえず体をゆっくりと休めるため宿へと泊まることにした。
そうでなくとも仲間たちの疲労もある。
休んでおくのは大事なことだ。
とはいえ……。
「キューラちゃん」
心配そうな声が聞こえ俺は鏡から目を離す。
そこにはクリエの姿があった。
「大丈夫……ですか?」
「あ、ああ……」
時間が経っても体に変化はなかった。
いや、むしろ絶好調と言っても良いかもしれない。
だが、普通ではないことは分かっている。
混血の中は片目が赤い。
中には先祖の力を色濃く受け継いでおり、魔族並みの魔法を使える者がいるという事だが……。
正直に言うとそこはあまり変わりがない。
魔族の中にも魔法が苦手なものは少なくはないし……。
魔族は魔法というイメージが付いているわけでもない。
一部の人間が勘違いをしているだけだ。
だが、そんな話がある一方で両目が赤くなっているのは居ない。
混血は必ず片目が赤であり、もう片方はそうではないのだ。
だからこそ混血だと判断がしやすい。
だというのに今の俺はパッと見てみると魔族に見えるだろう。
よく目を凝らしてようやく魔族ではないと分かるぐらいだ。
「…………」
「本当に……変なところはないですか?」
俺が曖昧な返事をしたことで彼女を余計に心配させてしまったようだ。
反省しつつ俺は頷き。
「大丈夫だって、ただびっくりしてるだけだ」
「……そうですか」
彼女は納得できないと言った風に頬を膨らませ俺の横へと座り込む。
「ここは平和なんでしょうか?」
「どうだろうな……」
アウクが作ったとされる街。
きっとここは勇者にとって平和なのかもしれない。
だが、それはあくまで街が見つからなければの話だろう……。
いや、むしろ見つかってはいて、敢て放っておかれているのかもしれない。
所謂はぐれ者の街だからだ……。
余計な心配事をしなくても良いと貴族たちは思っている可能性はある。
だが……そこにクリエや俺が居るとなればどうなるだろうか?
世界の反逆者……流石にそんな奴らが居れば俺だったら放っておくわけにはいかないと考える。
それが普通だ……。
「2~3日は大丈夫だろうな」
だから、俺は敢てそう言った。
安易に安全だとは言えないからな……。
だけど……。
「ヘレンたちはここに置いて行こう」
「なんで、ですか?」
俺の判断に彼女は驚いていた。
当然だろうが……もちろん考えはある。
「ここは安全だ……彼女たちにとってはな……適当に話を合わせてもらうように頼んでここに残ってもらう」
「でも!」
「このまま旅に連れて行くほうが危険だ……クリードに無事につけるかもわからないからな……」
流石に俺達とはなれればこの町やヘレンたちに危害は加わらないはずだ。
俺はそう思い、彼女にそう告げたのだった。
すると彼女は何も言えなくなってしまったのだろう。
黙り込んでしまった。
悪いとは思う……。
だが、それでも二人は連れていけない。
彼女たちのためなんだ。
「……クリエ」
「私たちは狙われ続けるんですか?」
「俺が魔王を倒すまでは恐らく……」
だからクリードを目指す。
あそこならばかくまってくれるだろう。
だが、いつまでも甘えていられるわけがない。
それも事実だ。
分かっている。
世界はきっと魔王を倒すまで彼女を責め続けるだろう。
いや、もしかしたらそれ以降もそうなのかもしれない。
だとすれば、彼女に安住の地なんてあるのだろうか?
そんな不安が俺の中に生まれた。
いや、だが……。
だからと言って何なのだろうか?
やることは変わらない。
迷う必要なんてない。
俺は俺の目的をなせればそれでいい……。
だから……。
「俺が……」
「なん、ですか?」
「俺がクリエを守るよ……ずっと戦いが終わっても君を守る、どんなことがあっても守って見せる」
そうだ。
だから……。
「だから、そんな不安そうな顔をしないでくれ」
クリエには笑っていてほしいんだ。




