409 死の山と村
しばらく歩くと町の入り口らしき壁が見えてきた。
こんな山奥にしかも、死の山と言われている場所にだ。
俺達がそこへと近づくと門兵らしき人が近づいてきた。
だが、何も言わずに俺達を見て……。
その目はそっとクリエへと向けられた。
「入りなさい」
「ちょっと待て、なんでそんなに簡単に入れる!?」
俺は思わずそう聞いてしまった。
すると彼は――。
「私たちは迫害された者、そして、真実を知った者だ」
彼の言う真実とはクリエの奇跡の事だろうか?
だとしたら……信用出来るか、出来ないか、それは結局分からないところだ。
しかし、彼は何も言わずに扉を開けた。
「……ようこそ、我らが村レリッドへ」
レリッド? どこかで聞いた覚えがある。
それも最近じゃない。
もっと昔だ……。
いったいどこで聞いたんだっけな?
「レリッド……?」
チェルも聞いたことがあるのだろうか?
怪訝な顔をしている。
するとトゥスさんは前へと出て銃を構え門兵へと突きつける。
「なにしてんだ!?」
俺は慌てて彼女を止めようとした。
すると彼女は振り返らずに――。
「その名前の意味を、その人間を知ってるのかい? なんだってそんな名前を付けたんだい?」
「噂のはぐれエルフか……なるほど、君ならば知っているかもしれんな……」
はぐれエルフというのがどういう意味なのかは分からない。
そもそもはぐれなんて言葉を使う事がないからだ。
しかし、彼はそう言うと――。
「ここはアウク・フィアランスが作った英雄たちの墓場……そして、迫害者たちの生きる場所だ」
その名を聞き俺達は目を丸めた。
アウク? アウク・フィアランスだって!?
アウクと言えばもう俺の夢に出なくなって久しい。
だが、奴はこの町に……居る……のか?
いや、待ておかしい!
だって……あいつは……もう死んでるはずだよな?
「あの、では……ここに綺麗な花畑とお墓があったりしますか?」
そう言ったのは俺ではない。
俺ではなかったんだ……彼女は門兵にそう聞くと彼は頷き……。
「なるほど、君が巫女か……なら、その中に居るはずだな? 世界を変えるかもしれん愚か者が……」
愚か、者?
一体誰の事だ……いや、そもそも何でチェルがあの花畑を知っている?
なんでだよなんで……。
「いないのか? 彼から受け継いだ者が居るはずだが……」
受け継いだ……者?
彼の言葉に反応したのはトゥスさんだ。
彼女はゆっくりと俺を見た。
「そうか、お前か……なるほど、ようやくここに来たか、思ったよりは遅かったな」
彼はそう言うと扉を潜り抜け俺達の方へと振り返る。
そして――。
「さぁ、ならば尚更その門を潜り抜けろ……そして、受け継ぎし者よ、お前にその覚悟があるかを試そうじゃないか」
そんなことを言い、去って行ってしまった。
ただの門兵にしてはどこかおかしい。
そう思いつつ俺達は門を潜り抜ける。
後ろで扉が閉められた音が聞こえたが、閉じ込められたわけではないようだ。
その事に安堵しつつ、俺は俺達は……彼の後をついて行く……。
彼が向かうのは宿などの施設ではなかった。
いったいどこに向かっているのだろうか?
そんな疑問を感じつつ俺達は後をついて行く……山をさらに登った先には……。
「……ここは」
「夢の時の……」
俺とチェルはほぼ同時に呟いた。
そう、俺達の目の前に広がっていたのはあの時の花畑だ。
広く綺麗な花畑の中心にはぽつんと一つの墓がある。
夢と違うのはあいつ……つまり、アウクが居ないという事だ。
「アウクは出かけてるのか?」
俺がそう言うとトゥスさんはため息をついた。
どうしたというのだろうか?
「アウクの奴はもうとっくに死んじまってるよ、それぐらいわかるだろ?」
死んでいる?
何を言っているんだ……。
そんなことは分かっている。
彼はどう見てもエルフじゃない、だから肉体は滅びているだろう。
だけど、あの夢は……本物だった。
だからここにも……。
「巫女以外の者が彼を見たというのなら……それは選ばれた証拠だ」
「……選ばれた証拠?」
一体どういうことだ?
彼の話へと耳を傾ける。
すると彼はゆっくりと話始めた……。
「ここにはある人が眠っている、死体があるわけではない。だが、彼の大事な人がな……彼はそれを守るためにここを作った」
「作ったって町をか?」
死の山……そう言われる場所に街を作っただって?
いや待てよ? 俺は何かを勘違いしているのか?
もしかして、ここは元々死の山ではなく、ただの山だったとしたら?
そして、彼が死の山にしたとしたら……。
しかし、何のためにそんなことをする?
いや、よく考えろ……今までの情報から察するに彼は……。
「そこがかつての勇者の墓ってことか……」
「そうだ、そして巫女の祖先の墓でもある」
彼はそういうと俺の方へと目を向けた。
「受け継ぎし者よ、お前はここまでたどり着いた最初の人間だ……この先何が起きるかは分からない。先へと進むか?」
その問の意味は全部理解できたわけじゃ無い。
だが、俺の答えなんて決まっている。
だから俺は答えたんだ……。
「俺はクリエを守るためにここに居るんだ」
そう、何も変わってなんかいないんだ。




