407 山へ
翌日から俺達は国境を超えるために山へと向かう。
これで安全とはいかないものの、クリードには向かえるはずだ。
しかし、問題はある。
「あとはアンデッドに会わないことを祈るだけだが……」
そうつぶやきながら入った山道にはアンデッドの気配どころか魔物の気配すらない。
動物はいるし、草花も生えている。
危険、という感じはしないが……。
「……?」
クリエも魔物の襲撃を予測していたのだろう。
しかし、平和すぎるそこに疑問を感じ首を傾げていた。
綺麗な髪がさらさらと揺れて、思わず見とれてしまった。
俺は慌てて首を横に振ると……。
「今はまだ何もいないみたいだ。先に進むけど皆……油断はしないように」
「当然じゃの……」
爺さんはそう言うと後ろへと歩き始めた。
しんがりを務めてくれるという事だろう。
しかし、なんか嫌な予感がする……。
「わしはここでおぬしらの尻……後ろを守ろう」
「師匠?」
やっぱりか! そう思った時にはすでに爺さんの後ろへと向かっていたレラ師匠がこめかみをぴくぴくとさせながら立っていた。
「レ、レラ! 男にはだな」
「何を言い訳しているんです?」
うん、師匠には逆らわないようにしておこう……。
そう思いつつ、俺達は前へと進むことにした。
爺さんだけ後ろというのは不安だったが、レラ師匠が居るなら変なこともできないだろう。
「……なんだろう?」
歩き始めたところでチェルの声が聞こえ、俺は横を見る。
すると彼女は上を見つめ……。
「なんか、変だよこの山」
「変? そりゃアンデッドの住処……」
のはずだ。
だけど、確かに変だな。
それは俺も感じていた……。
本当にアンデッドの住処なら死臭があってもおかしくはない。
だが、山らしくきれいな空気があるだけだ。
だというのにこの山にはアンデッドの住処という話があり、退治をしようとし戻ってきたものはいないという事だった。
「上の方……何かが呼んでる気がする」
「ん? 何かがって……」
なんだよ? と聞こうとするとチェルはふらふらと山を登る道へと入りこんでしまう。
「ま、待てチェル!!」
俺は彼女を慌てて追い、腕を取る。
するとチェルはこちらへと振り返ったが、どこかおかしい感じではない。
ただ……。
「分からないの、だけど……呼ばれた気がしたの」
「…………」
彼女がこんなことを言うのは珍しい。
本当に何かがあるという事だろう。
だが……今はろくな装備がない、このまま山に登るのは危険だ。
「なら、行きましょう?」
「うん、行ってみよう?」
二人はそう言うが……正直体力が持つか心配だ。
俺はそう思ってしまい……。
「山を抜ける方が良い……」
そう口にしようとした。
だが、それを言ったのは俺ではなく、トゥスさんだ。
彼女はため息をつくと二人を睨み。
「あんた達、自分の体力ってものを考えてるかい? 山を登るってのはろくな装備がなきゃ難しい。あんた達が耐えられるのかい?」
詰め寄るわけではなくその場で腕を組んでそういう彼女に対し、誰も何も言わなかった。
それは誰もが分かっていることだったからだ……。
だからこの場は……。
「そうだよね、気になるけど今は国境を抜けて安全な場所に行くほうが先だよね」
チェルの言葉にクリエやファリスも頷いた。
実際無難だからだ……。
「でもチェルさんは気になるのですよね?」
納得がいかない様子のヘレンだったが、俺は彼女の肩へと手を置き……。
「君たちを安全な場所に送ったらあとで向かうさ」
そう言うと黙り込んでしまった。
本当は分かっていたのだろう。
現状で山を登るのは危険だと……。
そもそも、山を登らずに抜けられる道があるのかは分からない。
だが、それでも平たんな道があるならそっちの方が良い。
そう思い歩き始めたところ。
ぐらりと地面が揺れ始めた。
「っ!? 地震だ!!」
そう叫んだのも束の間、俺達の目の前にあった道には何かが転がってくる。
岩だ! そう気が付いた時にはもう、遅く……。
巨大な岩によって道はふさがれてしまった。
「…………あ、あぶなかった」
イリスは震えながら俺の服をぎゅっとつかんでくる。
そんな彼女を落ち着かせるためにその手を握ってやりながら、もし、あの時チェルが呼ばれていると言わなかったら。
それで行く行かないの話にならなかったら……。
そんなことを考えると体が震えた。
だが、同時にこれで……。
「上に行くしかないみたいだな」
俺は山頂へと向かう道の方へと目を向ける。
「魔法でどうにかできないのかい?」
「下手にあの大きさの岩を壊したら何が起きるか分からない」
それこそまた岩が降ってくるなんてことにもなりかねないからな。
現状は放置したほうが良いだろう。
それにしても進み始めたところでよかった。
本当に……ほんの少しずれてたら大惨事で済まないとこだったな。




