404 それぞれのために……
それから俺達は歩き続け、一つの町を見つける。
だが、それには寄れない。
何があるか分からないからだ。
「ぅぅ……」
町を迂回し進むとヘレンはうめき声のようなものを上げた。
だが、それ以上は何も言わない。
いや、言えないと言ったほうが良いのかもしれないな。
本当はふかふかのベッドで寝たいだろう。
だが、それが出来ない。
俺だってそうしたいが我慢するしかない。
もう少し、もう少しだけの辛抱なんだ。
そう言い聞かせ、俺は前へと進む。
勿論、道中ヘレンやイリスに疲労が見えたら休憩をした。
しかし――。
「無理だね……」
そんな声が聞こえたのは町から随分と離れてからだった。
「何が無理なんだ?」
声の主であるトゥスさんに問うのはレラ師匠だ。
彼女は歩みを止めずに口にした。
「あの二人さ、これ以上連れて歩くのは無理だって言ってるんだよ、分からないのかい?」
「そんな言い方!!」
怒ったのは勿論チェルだった。
だが、俺は何も言えなかったし、クリエが何かを求めるように俺を見てきたが、首を振るしかなかった。
「足手まといだから置いていく! っていうのか!?」
だが、騎士である師匠にはトゥスさんの言葉が気に食わなかったのだろう。
苛立ちを見せている。
するとトゥスさんは――。
「ほかに方法があるのかい? 追手は放たれているはずだ。このままじゃいずれ追いつかれるね」
溜息をつきながらそんなことを口にした。
俺自身それは分かっていたことだ。
だが、他に方法はない……。
「キューラちゃん、まさか本当に?」
二人がようやく俺達に追いつくと息を切らしながら首を傾げていた。
確かに足手まといだ。
このまま連れて歩くことは危険なんだ……。
そんなことは分かっている。
「キューラちゃん、私は嫌ですよ、私は私のためにそんな事――」
「大丈夫、キューラお姉ちゃんの選んだことに間違いはない」
不安がるクリエに対し、俺を全肯定するファリス。
なんだかくすぐったくも感じるし悲しくも感じる。
そう思いながら……俺はトゥスさんに告げた。
「それで? まさかここに放り出していくなんて言う気じゃないだろ?」
「さっきの町に送る」
「そこが安全だとは限らない。安全な場所まで彼女たちは連れて行く……もし、それで追手に追いつかれるようなら倒せばいい」
俺がそう言うと師匠は「よく言った!」と微笑んだ。
爺さんも髭を触りながらうんうんと頷いている。
クリエは表情を明るくし、ファリスは最初から知ってかのように物静かだった。
チェルもほっとしたような表情を浮かべていた。
ただ一人を除いて皆が安心していた……。
そう、ただ一人を除いて……。
「さっき休んでからどのぐらいの時間が経ったんだい? 二人の顔色は?」
「…………」
彼女はこう言いたいのだろう。
対して時間は経っていないと……。
そして、それが意味するのは休み過ぎだという事だ。
そんなことは分かっている。
だが……それは仕方のないことだ。
イリスやヘレンは元々戦いに向かず、さらには旅にも慣れていないだろう。
イリスに関しては自分の町を出ているからあるいは……と考えたが、やはりそうではなかった。
だからと言って見捨てるわけにはいかない。
ましてやここはまだファーレンが納める土地だ。
彼女たちの身の安全が保障されるわけがない。
だというのにこの場に置いていくのは危険だ……。
「何も道端に置いて行こうって話じゃ――!!」
「駄目だ、彼女たちは連れて行く……」
もう一度俺がそう言うと彼女はため息をつく……そして「そうかい!」と口にすると不機嫌そうな態度を取った。
すると怒った様子の女性が一人――。
「そんなに気に食わないなら、あんたがどこかに行けばいいんじゃないか?」
そう言うのはレラ師匠だ。
しかし、トゥスさんはどこかに行こうとはしなかった。
その理由だってわかる。
わかるんだ……。
「師匠、やめてくれ……トゥスさんにはトゥスさんの理由がある」
そうだ、彼女にも理由がある。
そして、その理由の所為で二人を置いて行こうと言っているわけだ。
単純だ……彼女もまたクリエを守るために動いている。
だから、目的は俺と変わらない。
そんな彼女を責めることはできないし……まして、ここで別れることもできない。
「それをわかっておきながらお荷物を抱えるのかい?」
「荷物なら切り捨てるさ、だが、彼女たちは荷物じゃない」
そう言うとトゥスさんは大きなため息をつきタバコを吸い始めた。
喧嘩をする結果にはなってしまったが、何とかどこかに行くのは踏みとどまってくれている。
その事にほっとしつつ俺は前へと進む。
そんな時だ……嫌な予感がし、町の方へと目を向けた。
すると、そこから何人かの人たちがこちらへと向かって走ってくるのが見えた。
冒険者もいるようだが……。
なぜか本当に嫌な予感がする。
「走れ!! 早く!!」
「きゃ!?」
俺はそう言うと近くに居たイリスを引き寄せ抱き上げる。
背が小さい俺だが、師匠との修行の成果もあり、彼女ぐらいなら抱えられた。
だがヘレンは? 心配になって見てみるとレラ師匠が背負っていた。
これなら大丈夫だ。
俺達はその場から離れるために走り始めたのだった。




