401 罪滅ぼし……
パチパチという音が聞こえ、炎が揺れる。
そんな中、俺は爺さんの次の言葉を待っていた。
すると俺の頭の上に柔らかな感触を感じた。
ライムだ……。
そう言えば久しく頭に乗っていなかったな。
そんなことを思い出しながら、俺は爺さんの方へと目を向ける。
「それで何故そんな通り名を気にする?」
「……もともとアルセーガレンを目指していた」
何のためになんてことは言わなくてもわかるだろうか?
だが、ちゃんと言わなくてはならないよな?
俺はそう思いゆっくりと口を開く……。
「もともとあんたを探す為に向かっていたんだ」
「ほう、何のために?」
そんなこと分かりきっているだろ?
なんて言うつもりはない。
理由はちゃんと口にしなければ分からないだろう。
だからこそ俺は彼の眼を見て口にした。
「師を得るためだった……」
「…………わしなんぞたまたま武器の扱いに長け、戦場で最も魔族を殺しただけにすぎん」
なるほど、つまりこの人は昔の戦争の功労者ってことか。
だが、そんなことはどうでもいいんだ……。
「そうなのか……」
「お前はその技術を知って何をする?」
「勿論、クリエを守りたいだけだ」
それに……。
この爺さんに教えを乞う必要はないのかもしれない。
「だけど俺にはレラ師匠が居る」
「……そうだな、わしは殺すために……だがあれは守るための剣を手に入れた。師と仰ぐのなら、あれのほうが良いじゃろ」
……その彼女はあんたが育てた人だろうにと思うんだが?
そんなことを思い浮かべていると爺さんはさみしそうに炎を見つめる。
ライムはずるりと肩の方へと降りてきてゆっくりとももの上に移動してきた。
「あれを育てたのはせめてもの罪滅ぼしだ……誰のとは言わんがな」
爺さんには爺さんの悩みがあるのだろう。
それ以上は何も言わなかった……。
そして、真面目な顔をして俺の方へと向くと……。
「のう嬢ちゃん」
「なんだ?」
俺は彼の言葉に応えるべく聞き返す。
すると彼は……。
「嬢ちゃんのふとももに触らせてもらえんか?」
「お前は何を言っているんだ?」
人が真面目に話している時に本当に何を言っているんだ?
いきなり過ぎないか!? っていうか今までの真面目な話は何処に行きやがったんだよ!?
「いや、さっきからスライムの奴がうらやましくてのう……」
「こ、このエロ爺……」
俺がそう言うとほっほっほと笑う爺さん……。
いや、ほっほっほじゃないって!!
「しかし、お主はいったい何なんじゃ?」
「……は?」
いきなり真面目な話に変わったことに戸惑いつつ俺は呆けた声ぐらいしか出せなかった。
すると爺さんは……。
「お主の目じゃよ」
「俺の目?」
一体なんだというのだろうか?
そう言えばこの頃はあまり暑く感じることはなくなったな。
俺としてはうれしいが……。
「お主は混血じゃろう?」
「……そう、だけど?」
だから何だ?
そんなの見ればわかるはずだ。
なぜわざわざ聞くのだろうか?
俺は首をかしげていると爺さんは心底意外そうな表情を浮かべた。
「知らんのか?」
「知らんも何も……」
良く分からないな……。
そういうしかないのが本音だ。
「お主の瞳は片目が赤くなったり黒くなったりしておる」
「……は?」
何を言っているんだこの爺さんは……そう思いつつ、俺はふと思い出した。
確かに両目が赤くなっていたことを見たことがある。
それに何人かには混血と魔族を間違えられた。
片目を隠しているならともかく、そう簡単に間違えるわけがない。
レラ師匠に会った時もそうだ。
「ど、どういうことだよ」
俺は声を震わせながらそう口にすると爺さんは首を振り……。
そりゃ爺さんに分かるはずもないよな。
俺はパチパチと燃える炎へと目を向けた。
俺の両目が赤い……それはあり得ないはずだ。
俺には両親が居て、その両親も混血だ……。
混血からは混血しか生まれない……。
だから、俺が魔族として生まれるわけがない。
そもそも、俺は魔族じゃなかった……。
だというのになぜ目の色が? いや、変わっていることが疑問なんだ……。
一体俺に何が起きているんだ?
「体に不調とかはないのかのう?」
「あ、ああ……別に……」
ない、はずだ。
いや、むしろ良いほうだ。
だからこそ俺はそれが気になり、黙り込んでしまう。
もしかして、アウクの奴が何かをしたのか? できれば会って話したいが……奴ともこの頃話す機会すらない。
くそ……一体何が起きてる。
そもそも、こんな状況で……さらに厄介ごとなんて御免だ。
「何事もなく付ければいいんだが……」
俺はそうつぶやくとライムを頭の上へと乗せ、体育座りをする。
「なんじゃ、見えるかと思ったら無粋なものを履きおって……」
「おい爺さん、あんたの真面目はたったの数分も持たないのか?」
俺はこっそりどころか堂々と覗いてくる爺さんに向けわなわなと拳を震わせるのだった。




