400 賢者
出来上がった料理は焼いた肉と木の実。
質素な料理だと言ったらそう言えるだろう。
だが口へと運んでみると……。
「うまい!」
「うへへ……そう言ってもらえると嬉しいです」
正直な感想を伝えるとクリエは恥ずかしそうに笑った。
しかし、笑い声はいつも通りだな。
だけどそれにもだんだんと慣れてきた。
クリエらしさと思うこともできるようになってきたんだろう。
しかし……。
こうもおいしい料理を食べると逃亡中だということを忘れそうだ。
「ほほう! うまいのう! どれ、勇者のお嬢ちゃんの太ももを触らせてくれたらもっとうまいんじゃが」
「おい、爺さん、なぜ今クリエの太ももが関係あるんだ?」
ワキワキとした手を近づけていく爺さんに対し俺はクリエを守るように割って入りそう告げた。
すると彼は――。
「おいしそうじゃからな」
その言葉にレラ師匠とトゥスさんは呆れ、他の女性陣は思いっきり引いている。
この爺は……。
「クリエに触れるな、良いか? 彼女に変なことをしたらすぐにお前を殴り飛ばす」
「ほっほっほ」
いや、笑いごとで済ませるなよ……。
俺はそう言ったがなんだか疲れてしまいため息をついた。
これ以上何を言っても無駄だと分かったからだ。
「仕方がないのう、ならお嬢ちゃんを」
その手は俺へと向かってきて、手をひねってやろう。
そう思っていると……。
「あ、いや、やめておくかの……」
そんなことを言い始めた。
一体どうしたというのだろうか?
この爺さんの場合すぐにやめるようなことになるとは思わないんだが……。
振り返ってみるとクリエの顔からは感情が消え、ファリスはいつの間にか鎌を手にしていた。
なるほど二人を見て何かを感じ取ったのだろう。
それを見たレラ師匠は……。
「一度痛い目に遭えばいい」
っと口にしていた。
可愛らしいというかは凛々しくカッコいい彼女もまたやはり爺さんのセクハラ対象なんだろう。
この爺さん……。
本当に賢者なのだろうか?
なんだか不安になってくる爺さんだよな。
食事を終えた俺達は焚火をつけたまま寝る準備をし始めるとはいっても今すぐ寝るわけじゃ無い。
見張りの順番を決めるわけなんだが……。
「ほっほっほ!」
爺さんが笑っている理由は先ほど決めた見張りの順番でご満悦なようだ。
ちなみにファリスやクリエは怒っており、レラ師匠は心配そうに俺を見つめている。
無関心なのはトゥスさんぐらいだし、ヘレンやイリスもまた不安そうな表情をしていた。
「あのキューラちゃん……見張りぐらいなら」
「いや、二人はしっかり休んでくれ……旅に慣れてない二人の体力はしっかり回復しておくに越したことはない」
俺はそう言うと爺さんの元へと向かう。
そう、これから俺と爺さんは二人で見張りをするわけだ……。
「よろしくのう、お嬢ちゃん」
「あ、ああ……」
勿論こうなったのは俺の思惑通り……ではなく全くの偶然だ。
だが、これは運がいいと言ってもいいだろう。
相手は何て言ったって賢者と言われるほどの武器の使い手。
色々話を聞きたいとは思っていた。
だが……果たして真面目な話は出来るのだろうか?
そんなことを考えているとクリエとファリスの二人は俺の傍によって来ていた。
「おいおい……」
俺はそんな二人に対し呆れたと言わんばかりの態度を取った。
心配してくれるのはありがたい。
だが、これじゃ何の意味もないだろう。
「キューラちゃんは私が守ります」
いや、うん……それは嬉しいんだけど俺が君を守りたいんだからな?
「変態に近づけたくない」
ファリスもまた……いつも助けてくれるのは本当にありがたいとは思っている。
だが……。
「二人ともちゃんと休んでくれ」
俺は二人に対しそう口にした。
せっかく体力を少しでも回復する機会があるわけだ。
剣が得意なクリエに魔法や接近戦を使えるファリスの体力も温存しておきたい。
今は爺さんやレラ師匠が居る。
だが、やはり頼りにしていいのは二人だろう。
この先何が起きるか分からないんだ……正直疑り深いとは思うが爺は勿論、レラ師匠が完全に仲間だとは言い切れない。
もしかしたら彼女たちの所為で追手がかかるかもしれないんだ。
だとしたらこのまま俺と起きているより二人にはしっかりと休んでもらっていざという時に備えてもらいたいわけだ。
「「でも……」」
しかし、二人とも素直にはいとは言ってくれないみたいだ。
困ったな……。
そう思いつつも、俺は二人へと語りかける。
「頼む、この先魔物が出たりしたら二人の力が必要だ……下手な体力の浪費は避けてくれ」
そう言うと二人は目を合わせて互いにため息をつき仕方がないと頷いてくれたのだった。
二人がようやく休んでくれたのを見届け俺は爺さんと二人で起きていることになった。
ぱちぱちという焚火の音が聞こえる中、俺は爺さんに声をかける。
「あんた……本当に賢者なのか?」
それはヘレンと出会ったあの街での出来事を警戒しての言葉だった。
しかし、彼は――。
「そう呼ばれておるな……肩書なんぞどうでもよいがの」
そう言って火に枝をくべるのだった。




