397 別れ
「では……私はこれで……」
フリンはそう言うと部屋から去っていく……。
それを見てトゥスさんは俺へと目を向けた。
何を言いたいのか? それは何となく分かった。
だから俺は……。
分かってるという意味を込めて、頷く。
彼が敵かもしれないという疑いがないわけではない。
彼をこの場から逃がすこと……それ自体が罠なのかもしれない。
だが、もし敵だった場合連れて行くのは危険だ。
同時に今ここで帰すのもそうだ。
どっちにしても危険なのは変わりがない。
だが……。
仮に彼が仲間だったとして……。
本当に仲間だったとしたら、どちらが俺たちの有利なほうへと向かうのか?
それは簡単な話だ。
「頼むぞ、フリン」
「……はい、仰せのままに」
彼が町に残る。
それが俺達に有利に働く可能性が高い。
なぜなら彼はそれなりに高い地位にいる。
その気になれば俺を助けるという名目でまだ敵になっていない兵を動かす事が出来るだろう。
それだけじゃない。
俺達がクリードへと向かうという情報を隠すため何かしら隠蔽をしてくれるはずだ。
それがあれば……。
うまく逃げ切れるかもしれない。
どっちにしても誰かがここに残ることは必要で……。
それをするのは彼の役目と言ってもいいだろう。
俺達はそれ以上何も言うことはなく、彼が去っていくのを見送った後爺さんの方へと目を向けた。
「こちらも行くかの?」
彼の言葉に俺達は頷き答えると、しばらく時間をおいてからではなくすぐに地下を抜けた。
勿論これもフリンが敵だった事を想定してだ。
俺なら今この状況で攻め入ってしまえばいいと思うしな。
何せ相手は逃げ道のない地下だ。
これ以上ない好条件だろう。
だが、まだ敵の姿はなく、俺達はクリードへと向け歩き出す。
食料も心もとない。
ヘレンが不機嫌になる理由……つまり、下着の替えも彼女はない。
おそらく俺達のせいで満足に街にも入れない。
そんな生活が数日は続くだろう……。
うまくあちらの領地に入れればそれも解消されるが……。
果たして、そこまで無事に行けるか?
いや、関所だってあるだろう。
そうなったらどうやって抜けるかが問題だ。
下手に暴れて向こうでも指名手配なんて笑えない落ちはいらないからな。
「ぅぅ……」
がっくりとうなだれるヘレンを見て申し訳ない気持ちにはなる。
だが、ここで何を言っても無駄だ。
「急ごう」
だから、少しでも歩みを進め、彼女の不満を――。
「……あ、私も荷物をまとめてくるんだった……」
そんなことを思っているとレラ師匠のそんなつぶやきと悲しそうな声が聞こえ……。
俺は聞かないふりをしていたのだが……。
「途中で洗って干しながら歩けばいいじゃろ?」
「それはないだろ……いくら何でも」
爺のその発言には思わず引いてしまったのだった。
いや、途中で洗うのは良い……服もサイズは合わないだろうが俺達のがある。
だが……そのまま歩けとは彼女たちがかわいそうすぎるだろ? それ……。
まぁ、見た感じ真面目に言ったなんてことはまずありえないだろう……。
顔がにやついている。
本当にこの爺さんがアルセーガレンの賢者なのだろうか?
いや、間違いないのは分かってるんだが……。
なんというかこう……その、もうちょっとましなほうが良かった。
「それにしても」
爺さんは急に真面目な顔になると辺りを見回す。
俺はそんな爺さんに驚きつつも同じように周りを見た。
もしかしたら何かあるのかもしれない。
警戒しなきゃいけないんじゃないか? そう思ったからだ。
一応は実力のある爺さんだからな……こういったときは頼りになるに違いな――。
「美人に囲まれて困ってしまうのう」
前 言 撤 回 だ !
「おい、爺さん……」
俺が声を低くしそう言うが……やはり可愛らしい声になってしまい。
クリエがプルプルと震えている。
くそう! クリエのことだこの後は「キューラちゃんは怒っても可愛いですっ!」とか言いながら抱き着いてくるに違いない。
そう思っていたのだが……。
「ほほう! 怒る顔もそそるのう……」
「そっちかよ!?」
爺め……男に好かれてもなんもうれしくないぞ……。
クソ、フリンを帰らせたのは間違いだったか……。
「キューラお姉ちゃんに手を出したら……殺す……」
「いや、殺すなっていうか、返り討ちに遭うかもしれないぞ? 一応凄腕らしいからな……」
本当にそうなのかも怪しいぐらいだが……。
レラ師匠の師匠だということだし……実力はあるはずだ。
だが……どこからどう見てもただのエロ爺にしか見えない。
そう言えば昔から人気の漫画の師匠もエロ爺というかスケベ爺だったな。
別の漫画の大魔法使いの師匠もそうだった。
もしかして師匠になりうる爺さんって皆こうなのだろうか?
気になるところではあるが……。
この爺さん以外にエロ爺師匠枠はいらないな……。
「ほっほっほ」
俺は彼の笑い声を聞きながらそう思うのだった。




