395 魔王の影
ファーレンと魔王が繋がっている。
ファリスの言葉を聞き俺は苦虫を噛み潰したような表情になっていることだろう。
「でしたら、どうしますか? キューラ様」
倒す!
そう言いたいところだが分が悪い。
今現在この町にどれだけの敵が居るか分からないからだ。
勿論ファーレンへと向かうのも対策も無しではできなくなってしまった。
ファーレンへと向かっている途中、スクルドから敵が来る可能性もある。
いや、むしろ彼らの目的はそれなのかもしれない。
「…………」
逃げる、か?
だが、どこに?
それが問題だし、何より敵以外の人がいるスクルドを見捨てることになる。
ノルンの願いを聞いてあげる事が出来なくなってしまう。
それは良いのだろうか?
「何を迷ってるんだい!」
トゥスさんはようやく口を開き、俺を睨む。
一向に答えを出さない俺に怒っているのだろう。
彼女には申し訳ないと思うが……。
「あんたの目的は何だい?」
「……それは、クリエを守ることだ」
悩む必要なんてない。
これだけは俺の中で変わることなんてないんだ。
俺がクリエの方へと向くと彼女は目を丸くし、頬を染めていた。
その後、恥ずかしそうに「うへへ」と笑い始める。
その笑い方と女性好きの性格がなかったら完璧だと思うんだが……。
まぁ、それもクリエらしさだ。
俺が助けたいのは彼女だからそれでいい。
「目的がはっきりしてるなら、何を迷う必要があるんだい?」
「それは――あるだろ、色々と……」
そう言うと彼女は苛立ったような態度を取った後、ため息をついた。
気持ちはわかる。
俺だってトゥスさんの立場だったら――。
「あんたはクリエお嬢ちゃんを守りたいんだろう!? なのに、それ出来なくなる原因をいつまで抱えてるんだい! 小娘はどうなんだい? もし、キューラを守るのに邪魔なことが起きたら!」
質問はファリスへと向かう。
まだ幼い彼女にそんな質問は――。
「そんなの、邪魔な物を消すだけ……私はキューラお姉ちゃんの願いをかなえたいだけ……」
少女はそんなことを口にする。
するとトゥスさんは満足気な表情を浮かべた。
子供だからそう言えるんだ……。
そんな言葉は一切言わなかった。
だが、俺もそんなことを言うことはできなかった。
彼女だって人間だ。
しっかりとした意志の元、今の発言が来ている。
そして、ファリスはそれを実行するだけの実力が……。
「キューラちゃん、私も思うんだけど……きっとカイン君も難しいことは考えず自分の目的に近づくと……思う」
自身で惚れていた男性の名前を出し悲しそうな表情を浮かべたチェル。
彼女の言葉はやけに重みがあった。
いや、彼女だけじゃない、ファリスもだ……。
だが、俺はクリエを守る、守ると言っておきながら何もできていない。
結局……。
いや、よそう……。
ここで弱気になってどうする? 俺は彼女を助けたいんだ!
なら、やることなんて決まっている。
俺は一つ深呼吸をし……ゆっくりと前を見る。
そして、仲間達へと目を向けた。
俺がやらなきゃいけないこと、それはクリエを守ることだ。
……そして、敵は大きな国……魔王が後ろにいるかもしれない。
これまでさんざん名前だけ出てきたそいつはついに牙を剥いたのか……そんなことはどうでもいい。
俺は――。
俺がやらなきゃいけないことは……。
「……クリードまでどのぐらいかかる?」
そう、現状俺達だけでは何もできない。
俺達に出来るのはこのままクリードへと向かい助けを求めること。
情けないが……。
じゃないと皆死んでしまう。
これが、クリエも、仲間も……スクルドの皆も守るために必要な判断だ。
今は逃げる! 勿論、ただ逃げるわけではないが……それでも逃げは逃げだ……。
気が引けるが、ここでそんなことを言っていたら生き残れない。
だから、俺は意を決して助けを求めることにした。
「……クリードですか、恐らく一週間、ですが……」
「ファーレンの連中が追ってくるっていうんだろう?」
フリンは遠慮がちにそんなことを口にし、続く言葉はトゥスさんが答える。
するとフリンは首を縦に振った。
「キューラ様達はともかく、そちらの……ヘレン様やイリス様は……」
旅に耐えれない。
そう言いたいのだろうか? 確かに彼女たちは旅向きではない。
何しろイリスに関してはそれを理由にあの街に置いていこうとしたんだ。
そんなことは十分わかっている。
だが、今回はあの時とは状況が違う。
もし、置いていけば人質にされる可能性だってある……。
「爺さん、レラ師匠……手伝ってくれるか?」
だが、今はアルセーガレンの賢者、そしてその弟子がいる。
彼らの力を借りれれば……!
そう思い口にすると、爺さんはすぐに頷いてくれた。
だが、レラ師匠はまだ迷っているようだ。
「私は……」
「小僧の守りたかった物を守りたくはないのか? それにはこのお嬢ちゃんたちについていったほうが確実じゃないのか?」
爺さんはそんなことを言い、師匠はまたしばらく迷う。
しかし、ゆっくりと顔を上げると……。
「……わかったついていこう」
そう言ってくれたのだった。




