392 スクルド
洞窟から出て森を抜け、俺達が向かうのは勿論スクルドの街だ。
そこまでいけば後は捕まえたこいつを牢に入れ、それで情報を聞き出す。
一体誰があんな所にドラゴンを捕まえていたのか……?
もし本当にドラゴンがそこに居たのだとしたらそれを調べないといけないからな。
しかし、そうだとしたら……。
「…………キューラちゃん? どうしたんですか? 怖い顔です」
クリエにそう言われ俺は慌てて手を振った。
「い、いや、何でもないよ」
そう口にしたのは咄嗟の事だった。
余計なことを言って不安にさせたくはない。
させたくはないんだ……。
だけど……気になることがある。
もし、そうだとしたら、内部に敵がいるかもしれないということだ。
そうじゃなければわざわざ嘘を作る必要なんてない。
だが実際には森の調査を頼んだにもかかわらず、何もないという報告が来ていた。
つまり、誰かが嘘をついている。
「キューラ、警戒しておきな」
「ああ……」
それはトゥスさんもわかっていたことだ。
注意を促してくれた。
俺は彼女の言葉に頷くとまっすぐ前を見た。
その先にあるのはノルンが託してくれた街スクルド。
あの街のどこかに敵がいる。
それはいったい誰なのか……。
せめて俺の身近な人物でないことを祈った。
いや、それしかできないと言ったほうが正しいのかもしれない。
そうじゃなきゃ……やっていられない。
だが、居ることは確実だろう。
それをどうにかしないことには安心して出て行くことはできない。
旅立った後にあの街が滅びるなんてそんなのは嫌だからな。
せっかくクリエを守るための仲間が増えそうなんだ。
できることはしておきたい。
そうこう考えているうちに町の入り口が見えてきた。
いつも通り、町には門兵がいる。
彼らは俺たちを目にすると驚いていた。
そりゃそうだろう……俺たちは旅立ったはずなんだから。
こんなに早く戻ってくるはずがない。
そう思われておかしくないのだ。
「キューラ様!? どうかされたのですか!?」
「ああ……道中でこいつが襲ってきたんだ。捕らえたから調べてほしい」
俺がそういうとトゥスさんが背負っている人物に目を向ける門兵達。
どこかおかしいところはない。
いつも通り……。
「でしたらすぐに牢へ運んでおきます」
「あ、いや、俺達が運んでおく……フリン達はどこにいる?」
一応警戒だけはしておこう。
引き渡してそのまま逃がされたら困るしな。
ここは確実に牢に入れておきたい。
「フリン様達? ですか……おそらくは屋敷に」
「わかった、すぐに向かう」
俺は彼へと礼を告げると仲間たちとともに屋敷へと向かう。
人を担いでいるせいで、やけに目立つが仕方がない。
このまま何もなく終わればいいんだが……。
一応辺りを警戒しながら俺達は町の中を進む。
理由は勿論、どこに敵が居るか分からないからだ。
だが、俺達の心配は杞憂だったのか、それとも泳がされているのか……。
それさえも分からなかったが、敵に襲われることなく、俺達は屋敷へとたどり着いた。
屋敷の見張りをしている兵達は俺達を見ると驚いた表情を浮かべていた。
別におかしい訳じゃない……普通の反応だ。
何故ならトゥスさんが担いでいる男を見て驚き駆けつけてきた。
その表情にあるのは俺達を心配しているような瞳だ。
演技であれば大した役者……。
だが、彼らが演技が得意とは思えない。
「キューラ様!? だ、大丈夫ですか!?」
彼らの一人は俺の腕を見て男を睨みつけた。
しかし、男は気絶している。
下手に起こし暴れられても困ると思ったのだろう、震える拳を虚空に振り……。
「すぐに牢へ連れて行きます」
「いや、自分たちで連れて行く、それよりもフリンと話したいんだが……」
俺がそう言うと兵は頷き……。
「わかりました、伝えておきます! お部屋に向かっていただければ、よろしいでしょうか?」
「頼む」
今度は彼の言葉に俺が頷いた。
その足で俺達は牢へと向かい、男を拘束する。
カギは手錠などで繋ぎ、鍵はトゥスさんに預けた。
現状誰が味方で敵か分からないからだ。
少なくとも、俺達に嘘をついていた人物……。
彼らは敵である可能性が高い。
それが嘘でなかった場合もあるかもしれないが……楽観視はできない。
なんていったってクリエに関わることだからな。
彼女を傷つけようとするものは例え、部下であろうが敵と言っていいだろう。
俺はそれが目的で旅をしていた。
ここに居たのも彼女を守ってくれるかもしれない。
そんな思いがあったからだ。
しかし、今回捕らえた男はクリエを寄越せと言ってきた。
あいつがファーレンの手の者かは分からない。
だが、関りがないとも言い切れない……。
「…………頼むぞ」
俺が思わずそう口にした理由。
それは……頼むから身近な人が敵ではないようにと祈ったからだった。




