391 エルフとは……
俺はチェルに腕の怪我を治してもらってから男の方へと目を向ける。
無我夢中で放った一撃はちゃんと手加減できているかは不安だった。
しかし、運よく気絶をしているみたいで暫くは眠ったままだろうとトゥスさんが教えてくれた。
すぐに起きられても困るし、好都合と言ったら好都合だ。
だが……。
一つ問題はある、現状彼をだれが連れていくかだ……。
武装は解除してあるし、問題はない……防具の方は俺のせいでボロボロだしこれも気にする必要はない。
「トゥスさん、そいつを運べるか?」
「……おいおい、魔王様はか弱いエルフに……」
どこら辺がか弱いのだろうか?
むしろ世界が違えばダークエルフと言ってもいい褐色肌のイリスのほうがか弱いエルフなんだが?
なんかトゥスさんには申し訳ないんだが、本当にか弱いという言葉が似合わない。
本人を前にしてそんなことは言えないんだけどな……。
「すごい失礼なことを考えてるね」
「…………そ、そんなことは……」
思わず目をそらしそうになり、俺はそれをこらえながら口にする。
だが、そうだよな……例えそう思えなくてもトゥスさんは女性だ。
男を抱えて運ぶには無理が――。
「だとすると誰が運ぶか……」
「あの……あれ……」
俺が考えている中、イリスの声が聞こえ、そちらのほうへと目を向ける。
するとイリスがひきつった笑みを浮かべていた。
いや、誰だってそうなってしまうだろう……事実俺もそうなっていると思う。
先ほどか弱いだの言っていた自称エルフがタバコをふかしながら男を担いでいる姿があるんだから……。
「か弱いんじゃ……?」
「はぁ? 銃をぶっ放せるんだ。多少は力がないと肩がいかれちまう、あんただってそれぐらいは知ってるはずだと思うけどね」
「えっと……さっき言っていたことは?」
チェルも疑問を浮かべてしまったのだろう。
やはりひきつった顔をしていた。
クリエを見るとやはり彼女も若干引いている……流石の百合勇者も彼女には形無しということだろうか?
そんな態度を見ていたトゥスさんはため息をつきながらこう口にした。
「あんなの冗談に決まってるだろうに……」
おい……この状況で冗談!?
冗談だと彼女は口にしたのだろうか?
俺たちはまさに開いた口が塞がらない状態で彼女を見つめ……。
「なんだい……」
「ああ、もういい、分かった一旦スクルドに戻ろう」
俺は諦めたようにそう口にした。
すると近くにいたクリエも首を縦に振り……。
「エルフらしくない、エルフは冗談が嫌い」
そうなんだな……。
いや、うん……イリスは真面目だもんなぁ……。
確かにエルフというとイリスのような子の事を言うんだろう。
事実、エルフらしい少女だ。
「私、間違ってるのかな? エルフって普通はああなのかな?」
そう思っていると自身の種族に疑問を浮かべた少女イリスは困惑していた。
何かを言いかけるトゥスさんを遮り俺は――。
「何も間違ってない、イリスはイリスのままでいい、そのままでいてくれ……俺達、いや人類の為に」
「ふえ!?」
俺の言葉に彼女は突拍子もない声を出すのだった。
いや、人類のためにと言われたらそんな声を出したい気にはなる。
それはわかるが……。
本当に彼女はこの世界に残されたまともなエルフだ。
いや、彼女以外にもいるだろう。
だけど、以前トゥスさんが言っていた男好きや女好きのエルフがいるという言葉……。
トゥスさんを見てしまうとどうも嘘だとは思えない。
だから、出会ってまともなエルフが確認できているのはイリスと……もう一人いた気がするが……。
まぁ、イリスがまともならそれでいい。
「あの……キューラちゃん?」
「わ、私からもお願いします」
「クリエさんまで!?」
クリエのお願いにイリスは驚いている。
だが、無理もない。
なぜなら――。
「あはは……私もなんでかわからないけどそう思うかな」
チェルもチェルでそう思ってるんだな。
まぁ、とにかく……。
「腑に落ちないね」
「ええと、トゥスさんとにかくそいつを運んでくれ」
俺の言葉にトゥスさんは大きくため息をついた。
しかし、男を背負うと……。
「ほら、いくよ……」
彼女は不本意そうにそう口にした。
俺たちは頷き、一旦スクルドへと向け足を向ける。
この後はフリンにこいつを渡し情報を手に入れるだけだ。
だが、相手も簡単に吐くわけがない……。
だから、こいつが死なないように対策をしなければならない。
ここにきて自殺でもされたら意味がないからな。
それと、俺の目的はやっぱりクリエを守る事だ。
だからこそ、俺は領主を降りようと思う……だが、あの街を統治できる人物。
それは難しいだろう。
ヘレンに頼めればそれが一番いいのかもしれない。
だが、彼女は彼女の統治しなければならない場所がある。
なら、誰が適任か……やっぱりレラ師匠かフリンあたりか……。
彼女たちならきっとあの街を良い街にしてくれる。
それを信じて託すしかないよな。
きっと解放した奴隷たちも手を貸してくれるはずだ。
とはいっても丸投げじゃだめだろう、俺はあの街が安全に暮らせる街であるように……。
誰も手が出せない、そんな街にする一手を打たなければならないな。




