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39 チェルと共に

 教会へと着いたキューラはクリエを助けるべく患者や神父へと頼み、許可を得た。

 後は神父を連れて行くだけだ……そんな時連れてこられたのは重病らしき少女だった。

 彼女の親である貴族は新譜やキューラを困らせ、更には勇者を心配するそぶりも無かった。

 しかし、神父を盾に取られたキューラは他にても無く立ち尽くす所、クリードに来る途中であった神聖魔法を扱える少女チェルと再会したのだった。

「あ、あの従者様?」


 俺の方へと心配そうな顔を向ける神父に俺は頭を下げる。


「頼んでおいて申し訳ないけど、勇者の事はチェルに頼む事にする……神父さんはその子を――」


 そう伝えると、視線を貴族の方へと向けた神父は――


「そうですか、分かりました……ですが、もし、なにかあるようでしたらすぐにまたお越しください」


 彼はそう言うと貴族へと頭を下げる。


「お待たせしました、すぐに治療いたしますので」

「……ふん! 当然だ」


 貴族はそう言うと俺へと近づき――


「お前は正しい選択をした……」

「――っ!!」


 そう小声でつぶやく。

 そして、気持ち悪い笑みを浮かべた男は神父の後をついて行った……俺はそれを見送る形になり……

 ふと――


『例えば勇者なんかお願いできる立場じゃないとか……言われませんでしたか?』


 クリエのそんな言葉を思い出し、舌打ちをした。


「大丈夫、ですか? 今なにかを言われていたんじゃ?」


 内容は聞こえなかったはずだけど、態度でなにか嫌味を言われたのは分かったのだろう、俺の顔を覗き込むチェルは心配そうな表情を浮かべて……その瞳を嫌悪の物へと変えつつ貴族へと向けた。


「何でもない……それよりも急ごう!!」


 だが、今は奴の言葉何か気にしている場合ではない。

 俺は世話になった患者さん達に頭を下げ――教会を去る。


「クリエさんは無事なんですか!?」

「分からない、ただ……血が止まらないんだ……」


 走りつつチェルの質問へと答える俺は先程のクリエの傷を思いだす。

 傷自体はライムのお蔭で止血は出来ているはずだ。

 しかし、気になるのはトゥスさんが言っていた精霊石が魔力を狂わせるって事だ。

 そして、魔力が搔き乱されると人は死ぬ……

 エルフの暗殺術だったか? あれは精霊石を取り除けば本当に大丈夫なのだろうか?

 もし、間に合わなかったら……いや、今は考えるな! チェルを連れてあの酒場に急ぐんだ!!








 キューラの去った酒場にエルフの女性は待つ。

 本来ならば捕まえた男を連れ、依頼の完了をさせるはずだった……

 しかし、気になる事が出来たのだ。


「勇者の従者……あの子、なんで……」


 彼女は先程の少女が起こした魔法に見覚えがあった。

 だが、それは――


「純血でも扱いが難しいだろうに――火傷は負ったみたいだが、下手に使えば丸焼きになってもおかしくないってのにね……」


 そう言うと彼女は倒れる勇者へと瞳を向け――


「あの子がどんな存在なのかは気になる……ただ、ま……考え方には共感は出来そうだ……」


 まるで悪人の様に口角を釣り上げクククと笑った。









「クリエ!!」


 俺は酒場へと辿り着くとクリエの無事をすぐに確かめる。


「安心しな、お嬢ちゃん……その魔物はちゃんと言いつけを守っていたさ」


 するとトゥスさんがそう答えてくれたのだが……

 な、何でこの人がまだここに?


「そんな驚かれてもね、怪我人放って置いて去るのはアタシの流儀じゃないんだよ」


 彼女はそう言いつつ煙草を口に咥えると片腕が使えないと言うのに器用に火をつける。

 道具は此処にあったのを探したのか? いや、それよりもクリエだ! って急ぐあまりチェルがまだダ鳥着いてない!?


「キュ、キューラちゃん……早いです……」


 遅れて辿り着いたチェルは息を荒げつつも酒場の中へと飛び込んでくると、すぐに辺りを見渡しクリエの元へと走る。


「神父じゃ、ないのかい?」

「…………重病人が急に来てさ、その偶々チェルが教会に来てくれたんだ」


 俺はそれだけを口にするとクリエの元へと向かい――チェルへと目を向ける。


「傷は致命傷では無いみたいですね……深くも無いみたいです。一体なんでこんな事に?」

「精霊石さ……」


 チェルの疑問に答えるのはトゥスさんだ。

 彼女は近づきつつ煙草の火を消すと先ほどライムが摘出した石を持ち上げる。


「魔力って言うのは魔法が使えないドワーフを含めて、アタシ達が生きる上で重要な物だ。魔法は勿論、傷を自分で治せるのもこれのお蔭……魔族やエルフには精霊石を体に取り込こんでその身体機能を底上げする奴も多い」


 そ、そうだったのか?


「そんな話初めて――」

「当たり前だろ? 人間やドワーフが同じ事をしたら死ぬ……だから表向きは禁術として扱われていてね、この銃の球も矢にも精霊石が使われているだから、それがバレたら極刑物だ」

「もしかして、クリエさんはそれを体の中に? でも、それでどうして血が止まらなく……? そもそもこの状態で治癒魔法は利くんですか? もっと状態が悪くなる可能性も――」


 チェルは最悪の状況を思い浮かべ、トゥスさんへと問う。

 すると彼女は笑みを作り――


「大丈夫だ、アタシらと人間……魔力が微妙に違うってだけでこの精霊石を体に取り込めば害になる……だけど、神聖術は人間の持つ魔力だけが使える特に害の無い魔法……これ以上、血が溢れたり、傷がふさがらないってことは無いさ」


 そうか、だから人間と魔族……それぞれ違った魔法を使えるってことか……

 そして魔法に優れているのは俺達、混血や魔族、エルフの3種族……

 でもなんで混血は神聖、古代のどっちも使える人が居ないんだ? 混血が使えるのは古代魔法だけだ。

 いや、そんな事は今はどうでも良いか、クリエが無事助かったら改めて聞けば良い――


「チェル、頼む……」

「は、はい! そのライムちゃんは万が一の時の為にそのままでお願いします」


 ああ、元よりそのつもりだ。

 俺は頷いて答えるとチェルは傷口へと手を向けゆっくりと瞼を閉じる――


「我らへとその尊き愛を注ぐ神々よ……我が願いを告げる、汝が仇敵と戦い、傷つきし戦士に今一度汝の偉大なる加護を与えたまえ……」

「「……は?」」


 俺とトゥスさんは詠唱を聞き思わずそんな声を出す。

 神聖魔法の詠唱については俺も多少は知っている……彼女が紡いだのは確かに治癒魔法の詠唱。

 だが、それは――中級ではなく、勿論初級でもない。


「――リザレクション」


 ……死の淵に居る者でさえ、死んでいなければたちまち傷を癒せるという魔法で――名前を知った時は死者を蘇らせられるとすら思ったが、実際にはそれは無理らしい。 

 しかし、間違いなく現存する治癒魔法の中では最高の物だ。

 何が村一番だ……彼女達の村、そしてクリードまで合わせたって両手の指に入るんじゃないか?


「お、お嬢ちゃん……またとんでもないのを連れてきたね……」


 トゥスさんはそう言うが、俺だって知らなかった。

 しかし、なるほど……これだけの治癒魔法を使えるチェルが居れば大抵の事は危なくないって事か? カイン……

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