388 森の洞窟
洞窟の中へと入るとやはり暗い。
俺はランタンに明かりをつけると腰へと付けた。
前を歩くトゥスさんは自身のランタンで奥を照らす。
やけに整えられた道だ。
ゴブリンの巣穴とかではないだろう……。
かと言って動物や魔物が入り込んでいない訳が無い、警戒は必要だ。
そう思いつつ、一歩また一歩を前へと進む。
すると不意にトゥスさんが足を止め俺はその奥を覗き見る。
「……ここか」
「そうだね、此処がその場所だ」
そう言って彼女はすたすたと歩きだすと松明に火をつけ、それを壁へと取り付ける。
明るくなった洞窟の中にあったのは確かにそこに誰かが住み込んでいただろうという跡。
手掛かりになる様な物は残っているだろうか?
俺は疑問を浮かべつつも焚火の跡へと近づく。
「何も無いか……手紙かなにか燃え切らずに残ってるなんてミスする訳ないよな」
そう呟きながら、灰の中を探すが何も無い。
当然か……。
そう思いながらも辺りを見回す。
何処にでもありそうな野営の跡ではあるが……。
洞窟の中でわざわざする理由はない。
何かないか?
俺は洞窟の中を歩き回る。
すると不意になにかに躓き――。
「わぁ!?」
転びそうになると誰かに支えられた。
ふわりと良い匂いが漂った。
「…………」
顔を上げるとクリエが俺を助けてくれたみたいだ。
彼女は複雑そうな表情で俺を見ていた。
「助かった」
転んだところで大した怪我にはならない。
だがそれでも、下手に俺達の痕跡を残す訳には……。
「キューラちゃん……」
そんな時だ。
イリスの声が聞こえ、俺は彼女の方へと目を向ける。
すると彼女は俺の足元へと指を向けていた。
一体足がどうしたというのだろうか?
そう思いながら目を向けると……。
「骨? これに躓いたのか?」
いや、だが……骨? 動物のにしては小さいよな。
しゃがみ込んで良く見てみると……やはり何だかわからない。
「ね、ねぇ……ここ、骨がいっぱい埋まってるんじゃ?」
俺が骨に注目してると怯えた声が聞こえた。
チェルの声だ。
一体どうしたというのだろう?
骨ぐらいなら……思ったのだが……近くに見覚えのある骨があった。
「おいおい……」
まさか、嘘だろ?
そう思いつつゆっくりとそれを掘り起こしてみる。
するとそこから現れたのは想像したくもない。
「人の骨、だったみたいだね」
トゥスさんは興味なさげにそんな事を言っていた。
だが……。
「いや、どうして綺麗な状態で骨が埋まってるんだ!? 普通なら服やら腐肉やら……」
ついているはずなのにそれが無い。
異臭が無かったからそこに骨があると気が付かなかった……。
そう、気が付けなかったのだ。
「トゥスさん……これは?」
「恐らくドラゴンの餌になった連中だろうね」
そう言い切った彼女の言葉を聞き俺達は唖然とした。
ドラゴンは肉食と言う訳ではない。
雑食性だ……。
だから穀物とかでも十分だが、腹持ちが悪いらしく肉を好む性質はある。
だが、だからと言って食べさせる肉は人間が食べるような牛や豚を始めとした動物の肉だ。
人を食べさせる……。
それではまるで……。
「処刑じゃないか……」
俺は思わずそう口にした。
「恐らくそうなんだろうさ、此処はその処刑場だろうね」
「は?」
「ど、どういうことですか?」
これまで黙っていたチェルは恐る恐るとトゥスさんへと尋ねた。
すると彼女はゆっくりと目を瞑り、だんだんとつま先を上げ地面へと付ける。
「だから、此処がその処刑場だって言ってるんだよ、異臭がしなかったのは使わなくなった後、風の魔法で換気をしたからだろうね」
つまり、元からここはあったって事か?
でも……それじゃ……。
「ここに住んでたって言うのは?」
「この状況から見るにドラゴンの世話か……それは分からない、けど……」
彼女はそう言うと身を翻し入口の方を睨む。
そして、舌打ちをした。
彼女にどうした? なんて問う理由があるのだろうか?
いや、無い……! この状況でそれを問う理由はないんだ。
誰かが来た……。
そして、こんな状況でここに来る人間は限られているだろう。
冒険者と言う線もあるが、そうだとは言い切れない。
いや、それはあくまで楽観視に過ぎない。
「皆洞窟の奥に……! 俺とトゥスさんの後ろに下がるんだ!!」
俺は仲間達にそう告げ入口を睨む。
すると灯に気が付いたのかバタバタと言う音が聞こえた。
こちらに向かって来ている。
俺達が居る広場にやってきたのは俺が良く知る兵ではなかった。
見たこともない男だ。
彼は近づいてくるなり、表情をゆがめた。
「貴様は……なぜここに?」
「おまえは誰だ! なんで、こんなところにいる!!」
街の住人じゃない。
それだけは確かだ……。
そう思っていると、またもバタバタという足音が聞こえた。
どうしたのだろうか?
そう思っていると向こうから現れたのよく知る兵士だ。
「キュ、キューラ様!? ファーレンに向かわれたのでは!?」
彼はお届きつつもはっとすると目の前の男へと剣を向けた。
「貴様! そこから動くな! キューラ様に指一本触れさせないぞ!!」
この状況でなければ彼はそんなことをしなかっただろう。
だが、どう見ても俺が襲われているようにしか見えない状況で兵士は男に剣を向けてしまった。
そして――。
「ふん! うるさい奴だ」
男はその忠告に逆らいゆっくりと動き始め、その視線はしっかりと兵士を捉えていた。
俺は嫌な予感がし兵士へと目を向け、彼を逃がさなければそう思って口を動かそうとしたその時――彼の首は音を立て落ちた。




