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俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
17章 彼女のために…… 
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386 敵はどこに?

「…………」


 俺は彼が去って行った方向をじっと見つめる。

 何かが引っ掛かる。

 だが、確信には至らない。

 いや、正しくはそう思いたくない。


「怪しいね」


 だが、トゥスさんはそう思わない様だ。

 思いっきり彼の去った方を睨みつけながらそう口にした。


「だが、あいつは……」

「ここの領主はクリエを助けるのに手を貸してくれたんだろ? そしてキューラ、アンタのやりたい事も知っていた」


 それはそうだ。

 ノルンのやつはそうだった。

 だけど、彼は死に……彼の遺言通り。


「そいつが死んで遺言で街を継いだ。だけどその遺言って実際に見たのかい?」

「あ、ああ……手紙は見ているよ、実際にあった」


 それは分かっている事だ。

 つまり、俺は本当にノルンの遺志を継いでいるんだ。


「だけどそれはソイツの字だったのかい? 代筆だとしてもそれを公式な物として扱う理由は?」

「……それは」


 分からない。

 彼の字がどういう物だったのか……。

 そんな事は分からない。

 だが、確かに代筆の物だったとしたらそれが領主の言葉であると示す何かが必要だ。

 しかし、俺はそんなものを見てない。

 見たのはフリンが手紙を取り出した所だけだ。


「…………その説明は?」

「無かった……」


 そこまで言うといよいよトゥスさんは呆れた声を出す。


「なんだよ……」

「普通はね」


 普通と言うがトゥスさんだって領主になるのを否定しなかった。

 俺が彼女を睨むと彼女は悪びれも無く言う。


「あのね、そんな顔で睨むんじゃないよ。アタシはただあんたが本当の王様になる時の為に黙ってみてただけだ。こんな小さな街を一つおさめられない様じゃ、魔大陸の統一なんて無理だよ」

「それは、そうだろうけど……」


 なんか腑に落ちないな。


「奴の仕業だろうね……」

「まだそうと決まった訳じゃ」


 無い。

 そう言いたかったが、その言葉を飲み込んでしまった。

 俺自身そんな気がしてならなかったからだ。

 だが、それでも俺は……。

 信じたい。

 そう思っても居る……。


「奴はこの街を統治する人間が欲しいんだろうね。だからお嬢ちゃんが邪魔になった。いくら平和主義のファーレンでも今のお嬢ちゃんは敵だ」


 そう口にしたところで彼女は煙草を吸い。

 煙を吐く……。


「捕まったらどうなる事か分かったもんじゃないよ」

「…………ああ」


 それだけは避けなくちゃならない。

 それだけは……。

 だから囮を考えた。

 だが、それだって守り切れるならともかくそうじゃないなら別の話だ。

 囮になったイリスは助からないだろう。


「…………」


 統治する人間が欲しい。

 そして、それは誰でも良いという訳ではない。

 何故俺なのか分からないが選ばれたのには理由があるのだろう。

 だが、そんな事はどうでもいい。

 やはり俺達はこの街に居るべきではない。

 いや、違う……。

 そうじゃない……そうじゃないんだ。

 例え相手の思惑だったとしても今は俺は領主になってしまった。

 それが理由もなくまた居なくなったら街の人々は不安になるだろう。

 だが、俺達には俺達の理由がある。

 なら……。

 ちゃんと説明して領主から降りなければならない。

 代わりの人間はいる。

 だから……。


「…………キューラ、どうするんだい?」

「ああ、フリンの身の回りを調べる。その上で俺は領主を降り、旅を再開する」

「そうかい、分かった魔王様の仰せの通りに」


 そうするにしても何故俺なのか、フリンは何を考えているのか……。

 そもそも本当にフリンは俺を貶めたのか……。

 それを確証させる何かが必要だ。

 だが、そんなもの一体……いや、待てよ?


「誰かが住んでいた場所があるんだよな?」

「ああ、そうだね、その形跡はあったよ」


 俺は少し考えこみ……トゥスさんに告げる。


「明日皆でそこに出かけよう、勿論ヘレンやイリス……クリエも一緒にだ」

「……大所帯だね」


 そうだとは思う。

 実際少ない人間で彼女達を守れるか? と言われれば不安だ。

 だが、この街に安全な場所が無いと思われるこの状況で置いて行くなんて事は出来ない、よな。


「ファリスもトゥスさんも居る。何とかなるさ……」


 そう口にして俺はきっと大丈夫だなんて事を考えた。

 それはあくまで希望だ。

 そんな事はとっくのとうに分かってはいた。

 だが、そうでも言わなければいけないんだ。

 じゃなきゃ……。

 クリエ達を置いて行き、そのまま彼女達が襲われたら俺はきっと後悔する。

 何故守ってやらなかったのか? と……。

 連れて行っても同等の公開をするかもしれない。

 それでもまだそばに居て欲しい。


 これはあくまで俺のわがままでしかない。

 そう思っていたし、同時にそう思う事によって嫌悪感が生まれた。

 俺のわがままで彼女達を危険な目に遭わせるのだから当然だ。


「まぁ、その方がいいかもね」


 だが、トゥスさんのその言葉でそんな気持ちは少しだけ和らいだ気がした。

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