387 不安
トゥスさんの言葉を受け、俺はじっと考え込む。
もし、本当に出入りが無いとしたら……。
「もう、此処には居ない?」
「……そう考えるのは早計だね、こう言うのは見つからないようにするのが普通だ」
確かにそうなんだけど……。
そうだけど、他に何がある?
行くなんでも調査に向かわせた兵士全員が……。
いや、まて……まさか……。
「全員が敵?」
疑心暗鬼になり過ぎだ。
そう思いつつ俺はそう口にする。
するとトゥスさんは満足そうに笑った。
「そう考えるのも良い、だけど……安易にそう考えるのは領主としてどうなんだい?」
そう言われてしまえばそうだ。
だが、いや……待てよ?
おかしくないか?
なんで俺は……。
「キューラ様」
声をかけられ、俺はびくりと身体を震わせた。
どうしたのだろうか?
慌てて振り返ると其処にはフリンの姿があった。
肩で息をしているという事は何かあったのだろうか?
俺は心配になり彼の方へと近寄ると……。
「こ、これを……」
彼の手にあるのは一枚の封筒。
見た目からしてファーレンからの手紙だろう。
嫌な予感がし、それを手に取ると其処に書いてあったのは……。
『スクルドの幼き領主へ……私は返事を待っていたが……』
という文面から始まる手紙だった。
そこに書かれているのはまだ返事が来ない。
どういうことだ?
これは反乱の意思があるとみていいのか? と言うものだった。
クソッ!! このタイミングで……。
まだ、ドラゴン使いは見つかっていない。
だというのに……このままじゃ、ファーレンの奴らが来てしまう。
どうすれば……。
どう、すれば?
いや、何で俺は……。
俺は領主なんだから今は民を守るのも仕事だ。
それは分かってる。
だが、最初からそうだったのか?
いや違う……。
「最早、探し事などしている暇はありません、やはりファーレンへ」
「…………」
最初は否定的だったフリンだったが……今はファーレンへ行った方が良いという。
それに……何かが引っ掛かる。
全開手紙を受けた時はどうだった?
そうだ、封が切られていた。
理由はたしか……。
「今回は読んでないのか?」
「は、はぁ……それはしっかりと刻印をしてありましたから」
だが、それは前回も同じだ。
蝋でしっかりと封がされていた。
だが、空いていた……理由は毒虫がいないかどうかだったはずだ。
しかし、考えてみれば妙だ。
国王が毒虫を使うか? しかも手紙の中に忍ばせて……それこそ、反乱のきっかけになってしまう。
……そういえば、俺が領主になる切っ掛けもこいつだった。
まさか……まさか……。
俺は嫌な予感を感じ、一歩また一歩と後ろに下がる。
すると彼は怪訝な表情を浮かべ……。
「どうされたのですか?」
「いや、なんでもない、とにかく今はその事でトゥスさんと話があるんだ。下がってくれないか?」
俺は彼にそう言うと彼は不満そうな表情を浮かべた。
何故そんな表情をするのか?
それは分からない、だが……真意かそうじゃないか、それこそ分からなかったが……。
「では私もそこに居てはいけませんでしょうか? 街に関わる事ですので」
真面目な顔をしてそう口にした。
その言葉には何かが引っ掛かった。
何もおかしくない言葉のはずだ……。
だが、何かがおかしい……そんな気がしたんだ。
俺はその違和感の正体を探ろうそんな風に思い彼の言葉を頭の中で繰り返す。
しかし、今この場の雰囲気の所為か考えはまとまらなかった。
「いや、トゥスさんと話がしたいんだ……フリン悪いが席を外してくれ」
もう一度、念を押すように言うと彼は表情を歪める。
「側近である私にも言えないと?」
「そう言う事だ、諦めな……必要な事なら後からキューラの方から話があるだろうさ」
トゥスさんがそう言うと彼は彼女を睨む。
「様を付けたらどうでしょうか? 彼女は領主です」
「はっ! だからなんだい?」
エルフらしからぬトゥスさんが嫌いなのか?
それとも別の理由か……フリンは何故かトゥスさんに突っかかっているみたいだ。
だが――。
「フリン!」
俺が彼の名を呼ぶとこちらへと目を向けた。
そして、あくまでいつも通りを装い……。
「頼む……彼女の知恵は必要なんだ」
「………………分かりました」
そう言ってようやくその場から去ってくれた。
それを見送った俺は体の力を抜き、その場に座り込む。
何故、彼の発言に違和感を?
改めて考えるも思い浮かばない。
「街の為か……ふんっ」
するとトゥスさんはそんな事を口にし、不機嫌そうに鼻を鳴らす。
「そりゃ街の為だろ?」
「だが、それなら尚更いつまでもここに居るはずの無いアンタを領主にする必要はあるのかね?」
それは……確かにそうだ。
俺はここに居続ける訳じゃない、あくまで一時的な領主に過ぎない。
そのはずだ……だけど、領主が居なければ、あれ? そう言えばなんで領主が必要なんだ?
「なぁ、街って領主は必要なのか?」
「いや、確かにまとめる奴は必要だけどね、領主じゃなきゃいけない理由なんてない」
そう、だよな?
確かにそのはずだ……やっぱり何かが引っ掛かる。




