386 龍使いは何処に?
急に方針を変える事にフリンたちの中には不満を訴える者も居た。
いや、寧ろファーレンの元へと向かわない事を陰口ではなく目の前で堂々と非難もされた。
だが……あれから数日。
「それで?」
俺はそのうちの一人の兵の報告を聞く……。
「ええ、ですから……あの場には怪しい人物は居ませんでした」
そして、彼からの報告にはドラゴンが居たあの場所には怪しい人物が居なかったという事だけだ。
以前ならそれで話は終わっていただろう。
「本当か? 奴はいきなり現れたんだぞ?」
俺は彼へとそう言うと彼は困ったような表情を浮かべる。
「ですが、人が入った形跡などが一つもありません」
なるほど……入った形跡が無いのか。
これも今になった考えればおかしい。
ドラゴンがあんな場所に卵を置いて行くはずがない。
確かに他に脅威はない。
脅威はないが……適応できる土地でもない訳で……。
「分かった。下がって良い」
そう言うとようやく解放されることに兵士は明るい顔をした。
余程嫌だったのだろう、そそくさと出て行くのを見つつ俺は代わりに入って来たものへと目を向けた。
「それで? 何か見つかったのか?」
彼に調べてもらっているのは同じだ。
「はぁ……」
彼は納得いかないといった感じでゆっくりと話し始める。
「人がいた形跡はありました。ですが古いものです」
そう、彼に調べてもらっているのはあそこでの出来事。
全く同じ内容だ。
だが、帰って来た答えは違った。
つまりどっちかが嘘を言っているのか、それとも前の彼が見つけられなかった情報を持っているのかはたまた逆か……。
どっちにしても怪しい。
因みに依然頼んでいた時は今目の前に居る兵ではない。
先程ここに居た彼だ。
「それで、それはどの位古いんだ?」
「少なくともドラゴンが出るよりももっと以前のものかと、関係は……無いでしょうね」
「そうか……」
俺は大げさに落ち込んでみせ、ため息をつき――。
「分かった、引き続き頼む」
「はぁ……」
気の抜けた返事で去って行く彼を見つつ、俺は新たな人物を待つ。
ほどなくして入ってきたのは信頼が出来る人物だ。
彼女は俺を見るなり、その表情を崩す事は無かったがゆっくりと近づいてくると……。
「それで?」
俺は彼女へとこの日何度目かになる言葉を発した。
「ああ、一言で言うと最近使われた焚火がある。見つけてはいないようだけどね……」
彼女はそう言うと口に煙草をくわえ、ごそごそと自身の身体をまさぐる。
しかし、目的のものが見つからなかったのだる不機嫌な顔になり……。
「フレイム」
俺が火をつけると彼女は満足そうに笑った。
「悪いね」
「続けてくれ……」
彼女は頷くと紫煙を吐きゆっくりと話し出す。
「勿論アタシらではない。だが、調査隊の連中でもない」
「…………」
なるほど……と言いたい所だがどういう意味だ?
俺が首を傾げると彼女はニヤリと笑う。
確かに調査隊は近くの森と言う事もあり泊りがけではない。
だが、食事をする際に火を起こしても何ら不思議ではないはずだ。
「あいつらは森に入ってない」
「……は?」
どういう事だ?
「覚えてないかい、奴らは一緒にお嬢ちゃんを助けに行った奴らだ」
そう言われて初めて俺はそいつらが居た事を思い出す。
だが、それがどうしたというのだろうか?
「敵はまるでアタシ達が行く道を知ってるかのように待ち構えてた」
脱出の時の事か……!
いや、だが、それはおかしくはない。
どっちにしてもここスクルドに戻って来るには――。
「あの道を通るしかないだろ?」
「そうだね、だが普通なら安易にその道を進まない。馬が通れる道は他にもあった」
それは、確かにそうなのか?
いやでも……逃げるなら追手が来ない事が得策だ。
かと言って逃げる時、彼らが指示をした訳でもないんだし……。
「第一それがなんの関係が……」
「ああ、簡単な事さ奴らはあの時ドールを使い、敵に逃げ道を教えた。そして今回はファーレンの龍使いを招き入れあそこに住まわせた」
…………。
つまり、あいつらの所為って事か?
「なんのために、そもそも自分の住む街の領主を襲わせる理由なんて……」
「キューラはともかく、奴の場合はそうだ。だから分からなかった訳さ……最初から奴らの目的はお嬢ちゃんでこの土地を自由に分けるように言われてるらしいね」
なるほど……。
そうなれば領主は邪魔な訳か……かと言って目立つわけにもいかず、俺をそのまま領主として立てていたという訳か?
しかしそんな事をすれば誰も従わず反乱がおきるはずだ。
そうなってしまえば彼らに特は無い。
そんな事さえ――。
そう俺が考えているとトゥスさんは溜息をつき。
「恐らくは踊らされてるんだろうねぇ……そして、疲弊したこの領土をファーレンが押し寄せそのまま抑えるつもりなんだろうさ」
「そうか……だが、内通者が分かったとして肝心の龍使いは?」
俺がそう言うと彼女は首を横に振る。
「暫く使っていたらしい穴があったけどね、今もそこに居るのかは分からない」
「分らない?」
どういう意味だろうか?
「銃一つでまさか入る訳にはいかないだろ? 外から見張ってたんだが……数日間そこから人の出入りは無かった」
なら、龍使いは何処に?
流石に数日となると食料などの問題があるはずなんだ……。
もう、此処には居ないという事だろうか?




