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「だけど、もう手紙が来てるんだぞ?」
俺は迷った挙句そう口にした。
すると爺さんは笑い……。
「じゃな」
いや、じゃなって……。
「師匠、キューラ様をからかうのは……」
レラ師匠は怪訝な顔でそう口にするが……俺にとっての師匠なんだしもっといつも通りで良いんだが……。
そんな事を思い浮かべつつ、俺は爺さんを見る。
すると爺さんは髭を触り始め……。
「分っておる。しかし、それでお前さんは焦った……違うか?」
「は?」
一瞬何を言っているのか分からなかった。
いや、寧ろあんな手紙が来て焦らない人間は居ないだろう。
居たとしたらそいつの方が……。
「奴は平和主義者じゃ……表向きはな」
俺が困惑していると爺さんはぽつりぽつりと話し始める。
「だが、実際には平和主義を気取る為に裏でやましい事はしておる」
「…………」
俺は彼の話へと耳を傾ける。
「特に女関係ではな、良いうわさを聞きはせん」
「そうなのか……」
女、女性と言うならクリエもだが、恐らくそう言った意味ではない。
「今回の手紙も勇者を始末したいというのは本当だろう。だが……一番の目的はお嬢ちゃん、お前さんの気がするのう」
「……は?」
今度こそ言っている意味が分からない。
何故俺がファーレンの目的になる?
「奴は伴侶がおらん……が、先程言った通り女関係で良い噂は無い」
つまり、俺を妃に……いや、この場合そうではなさそうか……。
っていうか、それ本当か? 疑問に思った俺は師匠の方へと目を向ける。
「それは師匠も同じだが……事実だ」
「そう言われてものう……こんな可愛らしい領主が生まれたと言ったらそこに住むしかないじゃろ?」
ああ、なるほどこの爺さんの目的はそこだったのかって……!?
「いや、言うほどかわいくはないぞ!?」
というか女ですらない!
そう叫びたいがこの爺さんはそう聞いたらきっと確かめてきそうだ。
黙って置こう。
「お嬢ちゃんがそう思っても他の国の者はそう思っておらん。じゃからファーレンに目を付けられたんじゃな」
「……つまり、勇者を殺して俺を手に入れたいと?」
俺がそう言うと爺さんは頷き……。
俺は溜息をつく。
「あのな、いくらなんでもそりゃ噂だろ? 実際に会った事無いのに見た目が分かる訳が無い。女領主が珍しいと噂になってそれがねじ曲がり可愛いって言われ始めた可能性だってあるんだぞ?」
そう言うと爺さんは一瞬固まるが、すぐに笑い始める。
「面白い考え方をする」
いや、普通だろう?
っていうか、何故俺が狙いなんだ……正直勘弁してほしい。
「しかし、それもドラゴンの事を調べて行けばいずれ分かるだろう」
「そう言うものなのか? とにかく、納得は出来ないな……」
と言ったもののあちらの国に行くのは確かに無しのような気もする。
向こうに行ったら周りは敵だらけ……何故そんな単純な事に気が付かなかったんだ?
いや、気が付かなかった訳じゃない。
とにかくクリエの敵となる人間を消したかっただけだ。
仲間が危険な目に遭うかもしれない。
そんな事を分かっておきながら俺は……。
「クソっ!」
俺は思わずそう言い、じっと耐える。
爺さんの言う通りだとしたら大した策だ。
だが、同時にこの爺さんを完全に信用する事も出来ない。
何故ならこの爺さんと出会って間もないからだ。
彼が何を考えているのかは全く分からない。
だというのに安易に信じるのは良くないだろう。
冷静になってみるとこの人に何故手紙を頼もうと思ったのか?
俺は相当焦っていたらしい。
何度か深く深呼吸をし……爺さんを見る。
「それで、ドラゴンの事はどうやって調べれば良いんだ?」
連れてきたのか、それともそこで産ませたのか……それは分からない。
そもそもファーレンの国の者の仕業なのかすらも分からない。
そこから調べないといけないというと時間がかかりすぎる。
そうなれば当然向こうは攻めてくるだろう……。
狙いが俺かクリエかという違いは大きいが、攻めてくるのは変わりないわけで……それだけは避けたい。
「ふむ……まずは巣があるかどうかじゃな、もしあの場で生まれたのであれば巣があるはずじゃ」
「そうだな、たしかにそうだ……」
だが、あの近辺の事は探らせても……。
「巣は無いはずだ……」
報告は上がってきていない。
もし巣があるならそれを報告してくれるだろう。
何故ならドラゴンと言うのは同じ巣に子供を産む習性があるからだ。
余程危険な場所でない限りは……そもそも巣がある時点でおかしいわけだが……。
「なら、そのドラゴンは何処から来た?」
「それは……」
あのドラゴンは子供だ。
ドラゴンの親は非常に子煩悩だ。
信頼できる相手ならともかく人が攫って来るという事はまず出来ない。
なら親無しか? と普通は考えるだろうがそれも無い。
「…………」
なぜなら親が死んだ子供は別の親が育てるからだ。
その為ドラゴンの幼体は生き残る確率が高い。
親を失った子を我が子のように育てる親ドラゴンならたとえ血が繋がっていなくとも攫って来るなんて事は無理だろう。
「なら……あれは……」
親が信頼できる誰かが置いたという事になる。
「っ! この辺りで有名な魔物使い……ドラゴンを手名付けた奴を探せばいいのか!!」
そう、ドラゴンはスライムと並ぶほど恐ろしい魔物。
それならばドラゴンテイマーは有名なはずだ!




