38 教会
精霊石の銃弾は摘出出来た。
しかし、クリエは目を覚ますことなく傷口からは血が流れ出る……
エルフであるトゥスはこのままでは危険である事を告げ、キューラはクリエを助けるために教会へと走った。
門兵の一件のような事が無いのを祈りつつ――
やっと教会へと辿り着いた俺は息を荒げる。
「ぜぇ……はぁ……ぜぇ……」
だが、立ち止まることは無く、建物の中へと入ると中に居る人たちは一様に驚いた顔で俺を見る。
そして――青い顔をした人達は慌てた様に誰かを呼び始めた。
もしかして、神父さんでも呼んでくれたのか? そう思っていると手に巻いた包帯が赤く染まる男性に手招きをされる。
「お嬢ちゃん、こっちに!」
俺は彼へと近づくと――
「このお嬢ちゃんの方が先だ、それで良いかい?」
彼は自身の周りに居る人達に確認を取る――すると周りの人々は頷き――
「可哀そうに、両腕が酷い有様だ」
「何があったの? ただ火傷を負ったにしては――」
俺を心配する声が聞こえた。
そうか、俺――火傷をしたままだったな……それにしても、もしかして――
ここに居る人達全員……患者か? 見ればまだ小さい子も居る。
だが、包帯の人以外には大怪我をしているとかぐったりとしている様子は無い……頼めるか?
いや、クリエを救うためだ!
「その、お願いがあるんだ……」
そう思いつつ、従者の証を見せ――
「今勇者が死にかけてる……どうしても神父さんの力が必要だ……だから、勇者の所に来てもらって治療をしてもらいたいんだ……勿論、すぐに神聖魔法を使える冒険者を手配する!」
俺がそう言うと目を丸くした人々。
また勇者風情なんて言われるのだろうか? そう思っていると――
「な、なんだって!? 勇者様が? それは大変だ! 神父様にすぐに頼んでくれ!」
そう言うのは包帯の男性で――彼の言葉にホッとするも俺は申し訳なくなり、子供の方へと目を向ける。
すると――
「ゆうしゃさま、だいじょうぶ?」
「この子の事なら大丈夫です、薬をもらいに来ただけなので別の方でも問題はありません」
心配そうに俺に声を掛けてくれる子供とその親らしき人――
やっぱり、クリエを人扱いしないのは貴族や王族だけなのか?
とにかく、俺としては助かった。
俺は感謝しつつ頭を下げ――
「助かる……この礼は必ずする」
そう伝えた所、神父が慌てた様子でこちらへと向かって来る。
「重傷の女の子とは貴女の事ですね、皆様すみません――」
彼は俺を見るなりそう告げるが――
「いや、神父様それより大変だ! 勇者様が死にかけているってこの従者様が」
包帯の人は慌ててそう言ってくれた……すると、神父さんは俺の腕から目を離し――
「こ、これは従者殿!? そ、その勇者様がというのは――!?」
「本当だ、此処の人達には申し訳ないけど、すぐに助けてくれないか?」
俺の言葉に一瞬迷ったような顔を浮かべ、患者の人達へと目を向ける神父さん。
当然だ……俺は無理を言っているのだから――
「俺達の事ならさっき従者様から話があった……皆勇者様を優先してくれって事だ」
「そうですか、では急ぎましょう」
神父さんの心配は解消されたのだろう、これでクリエを助けられる。
それにしてもこの人には世話になったな。
本当に助かった……そう思った時だった――
「神父は居るか!!」
そこに現れたのはぐったりとした少女を連れた男性。
身なりからして貴族だろう……
「娘の体調がおかしい、今日は屋敷にいる神聖魔法使いが故郷に帰っていてな、早急に治してもらいたい」
彼は俺の傍に居る神父に気が付くと娘さんを抱え近寄ってくる。
「い、いえ……すみませんが、どうやら勇者様が大怪我をなさったそうで……すぐに勇者様を診て、その後一番に診させてもらいますので――」
神父がそう言うと彼はあからさまに嫌な顔を浮かべる。
そして、証を浮かべている俺に気が付いたのだろう――
「チッ……しかし、その勇者は今ここには居ないのだろう? 見ろ私の子を可哀そうに緊急だとは思わないか?」
「し、しかし……我々が生きていられるのもこれまで歴代の勇者様達が数々の困難を振り払ってくれたおかげです。無下にする訳には行きません――そこで、お子様の治療がすぐに出来るようお手数ですが、ついて来てもらうことは出来ますでしょうか?」
確かに、神父さんが言う通りこの貴族の人がついて来てくれればクリエも子供もすぐに診ることが出来る。
だが――
「私は今ここに居ないモノよりも娘を見ろと言っている。勇者の事は確かに心配ではあるが私の娘に万が一の事があったらどうする? それに今は平和だろう」
そっか、まだ魔王の事は広がっていないのか……だが、その言い方は無いだろう……
しかし、見るからに娘さんは重病だ。
子供に罪はない、かといってクリエを見捨てるなんて出来ない。
「命は皆平等です……どうか、お話を聞いてはいただけませんか?」
神父さんは頭を下げそう口にし――
「勇者様もお子様も事態は一刻を迫られているはずです。どうか、どうかご了承を――」
なお頼み続ける……俺もつられて頭を下げようとした時――
「貴様は知っているのではないか? どっちが優先だ?」
そんな貴族の言葉が聞こえ――頭を下げるのを躊躇った。
知っているとはつまり、そう言う事だろう……なんで、なんでクリエを……彼女に対してそんな扱いが出来る?
「この子は私の大事な娘だ何かがあったら、従者という仕事を全うするお前は罪に問う事が出来んが……この神父はどうかな?」
「なっ!?」
神父さんを盾に? そんなのは駄目だ――
ここの人達も神父さんもクリエを助けようとしてくれた……なのにそれが罪だって!? 何処まで貴族は――
「なんだ? その目は?」
「――っ!!」
どうする? こいつの様子じゃこのまま一緒に来てもらう事も出来ない。
どうすれば――
「……キューラちゃん?」
困り果てている所、聞き覚えのある声に俺は顔を向ける。
そこに居たのは――クリードまでの道で出会った少女チェル。
彼女は顔を青くすると俺へと近づいて来て――
「キューラちゃん!? その腕どうしたんですか!? それにクリエさんは――ううん、今はその腕を治すのが先です! 今治しますから!!」
「今、治し……?」
治す? そうか、そうだ! なんで忘れていた? チェルは武器を持っていない。
なのにカインと共に旅をしていた――
つまり、チェルは魔法使いである可能性が高い。
それに今の言葉は俺の予想を決定付ける物だ――
「頼むチェル!! クリエを助けてくれ!!」
チェルが治せるなら――神父さんもこれ以上は困らないし罪にも問われない。
この親……貴族の言葉は許せないが、子供に罪はない出来れば助けてほしい……なら――方法はこれしか無い。
「ク、クリエさん……を?」
「ああ!! 今、怪我をして動けないんだ……でも、此処にも重病の子が運ばれてきて――チェル、クリエを治せないか?」
俺は祈るような気持ちで彼女に懇願する。
すると、彼女は貴族の抱える子供へと目を向け――真剣なまなざしを俺へと向けると――
「任せてください! これでも村一番と言われた神聖魔法の使い手ですよ、とは言っても傷を治すのに限りですけど……」
今最も求めている、頼りになる言葉を言ってくれた。




