382 イリスへのお願い
俺がフラグを立ててから……翌日の事だ。
本当は昨日の内にイリスへと話しておきたかった。
だが、そんな時間は無く今目の前に彼女が居り、俺は昨日思いついた作戦を伝えている。
「あ、あの……つまり?」
彼女は話を聞き終えると恐る恐ると俺に尋ねてくる。
俺はその言葉を待つことなく頷き……。
「悪いけど囮になって欲しい」
その事を正直に伝えた。
すると彼女は当然、不安そうな顔になってしまった、
いや、それは仕方のない事だろう。
やっと見つけた安心できる場所。
だというのに頼まれたのは勇者の代わり……。
「む、無理ですよ!? だって私耳はとんがってますし! 色は黒いし……」
確かにそうだ。
エルフだから耳はとんがっている。
肌の色は褐色でクリエは透き通るような白、二人はその点で見れば全然似ていない。
「だけど布を被ってしまえば関係ない」
俺がその事を言うと彼女はぶんぶんと首を振った。
「ですから無理ですって」
怖いというのは分かる。
だが、彼女しかいない。
「背が近いのは君だけだ。奴らはあの街に居た人間かもしれない。そうなるとチェルやトゥスさんじゃ怪しまれる可能性がある」
そう、俺達を処刑しようとしたあの街。
そこに居ればきっとクリエを見ている。
顔までは覚えてなくとも大体このぐらいの背だったぐらいは覚えていてもおかしくはない。
つまり、今回誤魔化すに重要なのは顔やみためではなく背だ。
何故なら全身を布で覆うつもりだからだ。
そして、それにふさわしいであろう人物はやはりイリスだ。
「頼めないか?」
だが、あくまで強制はしたくない。
彼女だって俺達の仲間だ。
ここで領主として、勇者の従者として従わせることは簡単だ。
だがそれをしてしまえば俺は人としての大事なものを失うだろう。
だからこそ、俺は彼女に頼む事にした。
「そ、そんな……本当に、必要な事なんですか?」
「ああ、クリエを守りたい。そのためには君の協力が必要だ」
正しくは皆の協力が必要だ。
だが、これだけは言っておかなければならない。
「協力してくれなくてもしてくれても関係はない。君は守る」
「ぅぅ……」
俺の言葉を受けイリスは少し顔を赤らめ目を逸らす。
どうしたというのだろうか?
熱でもあるのか? それなら困ったことになる。
すぐ休んでもらわないといけない。
やっぱり、ファーレンへの謁見は俺だけで行う方がいいだろうか?
「ずるいです、女の子同士なのにその言葉はずるいです……」
「へ? 何か言ったか?」
「何でもないです!」
慌ててそんな事を言うイリスだが、一体なにを言ったのだろう?
気にはなるがどうやら話してくれそうにない。
困りつつ彼女を見つめるのだが、彼女はそっぽを向いてしまった。
「なんでも……ない、です」
その表情は赤くなっており、目が潤んでいた。
絶対に何かあるだろうと思って彼女の顔を覗き込むと彼女ははっとし、また明後日の方へと目を向ける。
「言ってくれないと分からないぞ?」
流石に俺はエスパーじゃない。
分かる訳が無いんだが……そう思って思わずそう口にすると彼女は顔を更に真っ赤にして……。
「いいのっ!!」
っと怒ってしまった。
い、一体なんなんだ? やっぱり女の事言うのは良く分からないな……。
「そ、そうか……」
俺は思わず後ろに一歩引きながらそう言うと彼女は赤い顔でこちらを睨むようにしている。
勿論、いつもよりも潤んだ瞳でだ。
「キューラちゃんって時々男の子かってぐらい鈍いですよね」
頬を膨らませて完全に起こっている様子のイリスに俺は乾いた笑い声をあげる。
この子に俺が元々男だというのはばれない方がいい。
そう何故か思えてしまった。
と、とにかく……。
「ファーレンとの謁見には手を貸してくれるんだな?」
俺は確認のためにそう告げると彼女は表情を変え迷う。
だが、しっかりと頷いてくれた。
「助かる、じゃぁ……段取りだけど」
俺は微笑み、彼女へと声をかけた。
後は作戦を伝えるだけだ。
と言っても簡単なものだ。
彼女には布をかぶせる……上等なものだ。
まるで貴族が被る様なそれで彼女を隠し、ファーレンの元へと向かう。
本来は貴族が身に着ける物であっても今回のような場合。
勇者という身分を隠すためだという言い訳が付くからだ。
そして、ファーレンと直接顔を合わせ引き渡すのが条件だと突き付ける。
かなり強引なやり方ではあるが、これなら直接顔を見る事も出来そうだ。
それに、相手は平和主義者。
そう言われては顔を出さざるは得ないだろう。
「う、うまくいくのかな?」
不安そうなイリスに俺は頷く。
「下手な作戦も自身があって行動すれば成功することだってある」
「それ、失敗する事の方が多いですよね?」
イリスに半眼で睨まれたが俺はゆっくりと首を振った。
「聞けって、代わりに自信が全くない奴に確実な作戦を提供した所で失敗する……要は堂々としてればいいんだよ」
俺達は……そう付け加えて俺はイリスを見つめた。




