表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
俺は百合勇者の従者にならざるを得ない……  作者: ウニア・キサラギ
17章 彼女のために…… 
398/490

381 少女の傷

 俺の話を聞いたファリスは納得できない様子だった。

 だが、今回ばかりはクリエを連れて行くわけにはいかない。

 危険だ……相手は彼女を狙っているのだから。

 だが、同時にこの街が絶対に安全とは限らない。

 護衛が必要だ。


 そうなればやはり彼女に頼むしかない。

 そう思った俺はその場から去ろうとした。

 いや、正しくは逃げようとしたと言った方が良いかもしれない。


 立ち上がり背を向けた時だ。


「守れないの? 守ってくれないの?」


 ファリスの悲しそうな声が聞こえた。

 俺が振り返ると其処には不安そうな少女が一人。

 彼女は震える瞳で俺を見上げている。


「ファリス……?」


 この子は何を言っているのだろうか?

 俺がこの子を守ったことはない。

 助けたか、助けないかで言われたら助けたことはあると言って良いだろう。

 だが、その後はどうだ?

 この子はクリードからあの牢獄の街まで駆けつけてくれた。

 それからずっと彼女は俺を守ってくれた。

 守れないの? と言われるのは分かる。


 ファリスが俺を守れないの? という意味か、それとも俺がクリエを守れないの? という意味どちらだかは分からないが……。


 だが……守ってくれないの? とは自分を守ってくれないのか? という意味以外にはない。

 つまり……俺が彼女を守っていた?

 いやいや、そんなことはありえない。

 俺は彼女より弱いんだぞ?


「何を勘違いしてるか……分からないけど、俺は君に守られていた」


 俺はそう言うと彼女の目線に合わせて告げる。


「だけど俺は君を守れていた訳じゃない……」


 そう言うと彼女は大きく瞳を見開き揺らす。

 今にも泣きそうな顔をしてぶんぶんと首を横に振った。


「ファリス?」

「守ってくれてた…でも、もう守ってくれないの?」


 守ってくれてた?

 俺がファリスを? そんなはずは……。

 先程も思った事を繰り返し、考える。

 だが、思い当たる事は何も無かった。

 俺がファリスを守れていた? 一体なにから?

 意味が分からない……。


「もう、一緒に居てくれないの?」


 フルフルと震えている彼女は不安そうだ。

 守ってくれない? 一緒に居てくれない?


「パパとママと同じ? 魔王様と同じ?」


 そして、大粒の涙を流した彼女は此方を見上げてきた。

 そこでやっと気が付いたんだ。

 この子は置いて行かれるのが怖いんだって……。

 助けた当初は名前を与え、連れて行くわけにはいかない理由があった。

 それに俺とそんなに親しいわけでもなかった。

 だが、今は違う。

 一緒に旅をしてこの子と過ごす時間が多くなった。

 なのに今回この子を置いて行くことを決めた。

 勿論クリエの為だ。

 だから、この子の事は考えていなかった……。

 過去に何があったのかは分からない。

 でも、置いて行かれることに恐怖を感じているのだろう……。


「……ファリス」


 彼女の頭を撫でる。

 すると彼女はびくりと身体を震わせ俺を見上げた。

 いつもの顔じゃない、怯えている。

 だが……そんなに怯える必要はない。


「俺は君を信頼している。だから、クリエを君に任せたいんだ」

「でも、置いて行かれる……」


 しゅんとしている彼女には悪いが……理由はちゃんとあるんだ。


「今回の敵はクリエを狙ってる。そのクリエの代わりをイリスへと頼むんだ。だから本物が居るのは駄目だ……奴らにはファリスが護衛ってことまではバレてないだろうから、君は何かあった時の為にクリエを守ってほしい」

「…………」


 俺がクリエを置いて行くわけがない。

 そんな事は分かっているはずだ。

 だが、それさえも頭に思い浮かばない位には戸惑っているみたいだ。


「ファリス……君の両親は知らない。だけど魔王の様に君を見捨てるつもりは微塵も無い」


 頭を撫でつつ彼女にそう告げる。

 この子は大事な仲間だ。

 確かにクリュエルはあの時、俺達を襲った魔王の手下だった。

 だが、今はその時の名を捨てファリスとしている。


「……本当?」

「ああ、勿論だ。だから安心してくれ、な?」


 俺は笑みを浮かて彼女の目線へと腰を落とす。

 それに今回どうしてもファリスに居てもらわないといけないんだ。


「ライムを連れて行く、その理由は何かあった時連絡の手段がファリスなら取れるからだ……だから、頼んだぞ」


 そう、ライムは賢いがスライムだ。

 連絡の手段を知っていてもそれを使う事が出来ない。

 だが、ファリスは人間。

 この子も頭は良いし、それ位は簡単だ……なら、どちらが今回クリエの護衛としてふさわしいのか?

 それは誰でも分かる事だろう。


「…………」


 鼻を鳴らしながら泣き始めていたファリスだが、涙を布で拭ってやるとじっと俺を見てきた。

 うぐ……そんな訴えるような目で見ないでくれ……。


「ファリス……やっぱり不安か?」


 俺は思わずその瞳に負け、そんな事を口にしてしまった。

 すると彼女は頷き賭け首を振る。

 ぅぅ、罪悪感が……だが、納得はしてくれたみたいだな?


「頼んだぞ」

「……うん」


 うわぁ……そんな悲しそうに……。


「なるべく早く帰ってくる! だから、そんな顔するな」


 フラグになりそうなことを俺は口走る。

 するとファリスは顔を上げ、少し微笑むと……。


「うんっ!」


 と笑った。

 こんな顔されたら仕方ないよな?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] さて……どうなることか
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ