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376 服屋へ

 俺達はまずヘレンの服を買う為に服屋へと向かう。

 店の中に入ると恰幅の良いおばさんが出迎えてくれた。


「あら、キューラ様! 何の御用で?」

「ああ、御用って」


 服屋に来る理由なんて限られてるだろう。


「服が欲しいんだ」

「そんな、うちの店なんか貴女様が着るような……」


 そうは言うが服の質が悪いわけじゃない。

 お抱えの服屋がある訳でもなし……。


「そんな謙遜する事は無いだろ? 見た所良い服が揃ってるじゃないか」


 男の俺から見ても良い服が揃っている。

 そう思ったんだが……。


「でも確かに貴族が着る様な服ではないですね」

「そうなのか?」


 俺は貴族ではないからなぁ。

 そう言うのは良く分からないが……貴族であるヘレンがそう言うのならそうなのだろう。


「じゃぁ別の服が良いか?」


 俺がヘレンに尋ねると彼女は首を横に振る。


「いいえ、私は此処の服が気に入りました」


 笑みを浮かべ答えてくれた。

 そういえば、ヘレンは派手な服は着ていなかったな。


「なら、問題はない……服を見繕ってくれ」


 俺がそう言うと……店主はやや困った様な表情を浮かべた。


「ええ、ですが……」

「この見た目じゃまるで奴隷だろ? 頼むよ……」


 彼女は……この街に必要な人間になる。

 なら、ちゃんとした格好をしてほしい。

 俺の勝手な希望でしかないが……。


「分りました、そこまで言うのでしたら……」


 彼女はヘレンを連れて行き、どうやら服を用意してくれるのだろう。

 俺は少し待ってればそれで良い。

 そう思っていたんだが……。


 暫くすると新しい服を着たヘレンが戻って来た。

 貴族というには地味だが、無地の上着、長いスカートと先程の奴隷同然の格好とは比べ物にならない。

 うん、十分すぎるな。


「いくらだ?」


 俺は財布を取り出し店主に尋ねた。

 すると彼女は驚いた顔を浮かべている。


「そ、そんな!? 領主様からお金なんて……」


 もらえないという事か? いや、それは違うだろう。


「領主も何も関係ない、俺は服を求めてこの店に来たんだ。なら、金は払って当然だろ?」


 何か間違っているのだろうか?

 そう思ったが、彼女は慌てるばかりだ。

 しかしなぁ……いくらなんでも売り物を無料で貰う訳にはいかない。


「とにかく金は払ういくらだ?」


 良質な服だが、街の人が着るような物。

 一般的な食事が15ケート……服を揃えたらそれ以上は行くだろう。


「10ケートです……」


 いや、いくらなんでもそれは無いだろ?


「普通に考えたら食事と同等ぐらいですね?」

「だよなぁ?」


 よっぽど気にされてしまっている様だ。

 なんかこれじゃ悪い気がしてきたな……。


「分かった25だそう、今回は突然押しかけて無理を言ったからな……その代わりこれからも世話になるかもしれない。あんまり煌びやかな服は好きじゃないんだ」


 そう言い、机の上にお金を置くと店主は大慌てで返して来ようとした。


「い、いただけません!」

「それじゃ商売じゃないだろ? これからも頼むって言ってるんだむしろ安すぎる」


 俺がそう言うとおばさんは深々と頭を下げてきた。


「あ、ありがとうございます。ノルン様同様寛大な方なのですね」

 

 そんな事を言われて俺は初めて気が付いた。

 そうか、この人達はまだ俺を完全に信用はしていない。

 当然だよな……。

 ノルンが死んで……そして急に俺が領主になった。

 彼としてはいずれはと思っていたのかもしれない。

 だが、急過ぎた。

 だからこそこの人達は俺に対する信用が低い。


「……頭は下げなくていい、ノルンだってきっとそう言う」


 俺はそれだけ伝えると微笑み、こっちの方から頭を下げた。

 当然だ、頼む立場なんだからな。


「これからもよろしく頼むよ」


 そう残し、俺達は服屋を後にした。

 さて、後はフリンにヘレンを紹介するだけだが……。

 一つ気になるのはクリエが匿われていた場所に誰が眠っているのか? という事だ。

 ヘレンじゃないとしたら一体誰なんだ?


 イリスが確か彼女と一緒だったはずだ。

 なら彼女が知っているだろうか?

 とにかく一度屋敷に戻ってみない事には話が進まないな。










 屋敷に戻るとフリンがこちらへと向かって来た。

 慌てている様ではなく偶々俺を見つけたと言った所だろう。


「ようやくお帰りになりましたか……」

「ああ、それでこの人がヘレンだ」


 彼女を紹介するとフリンは溜息をつき……。


「捜索など兵に任せてくれればそれで良いんです」

「駄目だ、彼女は自分で誘わなきゃいけなかった」


 そうは言ってももう終わったことだ。

 これ以上は何も言える訳じゃない。


「彼女の部屋は?」

「用意してあります」


 流石だな……仕事が早い。


「案内をしてくれ、俺はちょっと用事がある」


 そう言ってヘレンへと目を向ける。


「彼は信用出来る」

「分りました」


 ちょっと不安そうだったが何かされる事は無いはずだ。

 俺は彼女達と別れイリスのいる部屋へを目指した。

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[一言] あそこには誰が眠っているのか……
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