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37 クリエを救うために……

 夢の住人の魔族――

 彼はキューラに語り掛け一つの詠唱を伝える。

 キューラは魔法の名が無い魔法が使える訳が無いと思いつつも藁にすがる思いで詠唱を唱えた。

 すると、彼の拳には焔が宿り、その拳で奴隷商を討つ……

 すぐにクリエを起こそうとするのだが、どうやらトゥスの言う事では彼女は精霊石の影響で危険な状況にあるらしく――キューラは急ぎライムの手を借りるのだった……

「勇者なんて、所詮は……使い捨ての道具……だろぉ……」


 クリエをライムに任せている時に俺の耳に届いたのは信じられない言葉だった……

 その声に俺は振り向くと俺が殴った男ではない方の男が身を起こしており――


「なんて言った?」


 俺は震える声で問う……


「勇者なんて! ただの道具だ!! 世界の為に死ぬそれだけが存在価値だろうが!!」


 何を言ってやがる……こいつは……

 何が世界の為だ……何が勇者だ……そんなのはただの生贄だ。

 やっぱり、コンな奴ばっかなのか? いや、世界にはこんな奴ばかりではない、そんな事は分かってる。

 だが……それでも、この言葉この発言は許せない。


「目を覚ませよ、魔族、混血、人間、エルフ、ドワーフ! 俺達の方が勇者なんかよりも上の存在だ!! そんな奴ほっとけよ……さっきのを見たぞ? どうだ? 俺が金をもうけさせてやる」


 ああ、虫唾が走ると言う言葉はこのためにあるのだろうか?

 俺は感覚の無くなった腕に力を籠め拳を握り――


「精霊の業火よ――」


 自分の腕がどうなろうと構わない……そう思い詠唱を唱え始めた。

 だが――


「勇者が道具か……」


 俺の詠唱が終わるよりも早く女性の低い声が酒場の中へと響く……


「いつまで経ってもそう言う連中ばかりだ」


 そしてガチャリと言う音と共に俺の目に映った光景は――


「トゥス……さん?」

「お、お前……なにをして……」


 頭に銃口を突きつけられている男の姿。


「お、俺を殺すか? 俺を殺せば――」

「おいおい、アンタは闇奴隷商だったろ? 例え違ったとしてもそこに居る勇者が倒れてるのはあんたらの所為だ。勇者を守った事になるアタシが裁かれることは無い……それに依頼主の願いでね……娘を奴隷にした本人は生かし連れて来いとは言われたが……その他のついては何も言われてない」

「トゥスさん! まっ!?」


 このままではあの男が殺される。

 そう思い俺が待てと言おうとした瞬間――無情にも撃鉄は落とされ、男の額からは銃弾が飛び出た。

 それは余りにもあっけなく……先ほどまで喋っていた人だとは思えない瞳で……


「し、死んだ? 殺したのか?」

「だからなんだい? 相手は犯罪者……この手の依頼はこの世には山ほどある」


 それはそうだろう……平和と言っても日本の様にとはいかない。

 だが、この世界にだって法はあるし――


「無意味な殺生は罪のはずだろ!?」

「無意味なもんか、相手は闇奴隷商……正規の奴隷商ならアタシが捌かれて当然だが、闇奴隷商なんて運が良ければ王からも褒美を貰えるじゃないか、依頼を受けて正解だ。無事アイツを捕まえた以上証拠があるからね」


 そう言って俺が殴り飛ばした男へと指を向けるトゥスさん。

 彼は縄で縛られていて……今の発砲音で気が付いたのだろう青い顔をしている。


「そんな事より、勇者のお嬢ちゃんは?」

「…………っ!!」


 慌ててクリエの方を見るとどうやらライムは無事精霊石を取り除いてくれたみたいだ。

 だが、その所為で傷口は広がってしまったのだろう、血が溢れている。

 クソッ!! トゥス……さんには色々と言いたいがそれどころじゃない!!


「血が、血が止まらない!!」


 必死に抑えるも一向に止まってくれる気配の無い血液。

 俺の手は真っ赤に染まって行き、それを見てトゥスさんは舌打ちをする。


「急所は外れてる……でも、まずいね。早く止血して教会に連れて行ってやりな」


 そんな事言ったって……そうだ、クリエの奴何か持ってないか!?

 そう思い慌てて彼女の荷をあさるが――


「っ!?」


 指先に痛みを感じつつも取り出すとどうやら指を切っていた様だ。

 そこにあったのは割れたポーションの瓶、濡れた包帯。

 壊れた道具……恐らく倒れた時の衝撃の所為だろう……

 これじゃ使い物にならない……包帯は最悪服を破れば……だが、止血のための薬とかないのか!?


「……待てよ?」


 俺は先程精霊石を取り出したライムへと目を向ける。

 こいつは伸縮自在のスライムだ。

 なら……もしかして――


「ライム、何度も悪い――クリエの傷口を……圧迫して止血とかできるか?」

『――――』


 ライムはまるで分ったと言わんばかりに跳ね、再びクリエの傷へと覆いかぶさる。

 すると徐々にではあるが出血の量が少なくなって行く、よし……これなら――安心だ。

 何せライムはセージスライム、ポーションの代わりになるとも言われているんだ、もしかしたら傷を癒す力も僅かでもあるかもしれない!


「後は――傷を治せる人だ!! トゥスさん運ぶのを手伝ってくれないか?」

「それは無理だね」

「な――!?」


 この人はさっき道具って言った時に起こった様子だったのになんで!?」


「勇者を見捨てる訳には行かない、だがこいつに逃げられるわけにもね……かと言ってこっちの依頼を済ませてからというと精霊石の影響もある勇者が持たないだろ? そもそも肩を負傷してるアタシが二人も連れて行けるわけない」


 そ、それはそうだ。

 俺もこの腕だ犯人とクリエ二人を同時に連れて行くなんて不可能だ。

 ライムに移動を頼むか? いや、駄目だ……俺を乗せた時の動きは鈍かった……

 恐らくだが、人を乗せて運ぶには力が足りないんだ。

 だが、浮遊魔法は俺には使えない……かといってこの場も――


「ここに置いて行くのも危ないだろうし……」

「それは大丈夫だと思うよ」

「……は?」

「相手は闇商人、表立って行動することは少ない。今殺したそいつだってたまたま来ていただけだ……多少の時間ならあるはずだよ」


 なら、走れば――走って教会の人を連れてくれば良いって事か――


「ライム! そのままクリエを頼む……」


 俺はそう言い残すと酒場を出て走る。

 幸いこの世界の教会には見覚えがある……迷う心配もない、なぜなら教会の建物には分かりやすい十字架が付けられているからだ。


 辺りを見回し、その建物を見つけた俺は走るが――同時に俺の腕は痛みを訴え始めていた。

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