369 レラ師匠の元へ
「あの森、湖周辺がドラゴンの産卵場所と言う事は無いのか?」
俺の質問に彼は首を横にゆっくりと振った。
「あの場所はそんな危険な魔物が見られた事はありません」
「そうか……」
ならやはり、ドラゴンは持ち込まれた。
そう考えた方が良い。
しかし、何処から? 何のために?
いや、ドラゴンのような危険な魔物を送ってくるなんて理由は一つしかないか……。
俺達を殺そうとしている。
湖を狙ったのもそこに来ると踏んでだろう。
なら、領地内のファーレン……近くのベルゼのどちらかだ。
魔王軍なら直接狙ってくるだろうし、わざわざ湖を狙う必要はない。
それなら同じ理由でベルゼの線も薄いか……。
ベルゼは魔大陸と同じで奪い合う事を法としている。
対しファーレンは避けられる戦いは避ける。
逆に言えば正面からは戦わない場合が多い。
なら、ドラゴンを置き、討伐体を編成するから従えと言ってくる可能性もある。
平和主義だからな余程の事が無ければ滅ぼすなんてことは言わないだろう。
まぁ、領地内のスクルド領主であったノルンが反逆してはいるが……。
「……フリン、ファーレンと一応ベルゼの動向を調べてくれ」
「承知いたしました」
さて、このままいけば恐らくファーレンとの戦いになる。
まさか魔王と戦う前に神大陸で戦争をしようとは思わなかったが……。
「さてと……」
俺は執務を中断し、立ち上がるとフリンは――。
「まだお仕事が残っていますが?」
「ちょっと大事な用事が出来たんだ……今日中には終わらせるがどうしても会わなきゃいけない人が居る」
そこまで言うと彼は何も言わずに黙り込み、頷いた。
「ファリス、クリエ、行こう!」
二人を連れて俺は執務室を後にする。
暫く歩くとファリスが小走りで俺の横について見上げてきた。
少し歩くのが早かったか? そう思いながら速度を落とすと……。
「キューラお姉ちゃん、誰に会いに行くの?」
と質問をしてきた。
「レラ師匠の所だよ」
そう俺が向かっていたのレラ師匠の所だ。
彼女はこの時間なら訓練所にいるだろう。
そこに向かい話をしたいのだ……。
戦争になれば当然兵が居る……だが、相手の方が数が多いのは既に分かっている。
こっちは街とは言え、国じゃない。
集まってせいぜい千人……いかないだろう。
だが、ファーレンは万は超すだろうしなぁ……どうしても策は要るし練度も要る。
当然俺は頭が良い方ではないし……相談をしておきたい訳だ。
訓練場に着くとレラ師匠はたった一人で修業をしていた。
「流石ですね師匠」
俺がそう言うと彼女は一瞬びっくりとしていたが、すぐにこちらへと振り返ると笑みを見せてくれた。
どうやら少しは回復したみたいだ。
「すまんな、今……」
彼女はそういうと布で汗をぬぐいながら俺の方へと歩み寄って来た。
「キューラ、その……」
彼女は言いにくそうに俺の顔と他の場所を交互に見ている。
師匠にしては落ち着きが無い。
いや、それもそうか……カインを失った旅。
あの後オレは彼女には会っていなかった。
それどころか記憶の一部、いや大部分を失っていた……。
それは聞いていたはずだ。
「大丈夫ですよ師匠」
「そうか……」
俺の言葉に複雑そうな表情を浮かべた彼女はぎこちない笑みを浮かべる。
「強いなキューラは……」
強い? 強くはないんだが、何故キュにそんな話になるのだろうか?
「想い人が逝って、なお戦いを続けるとは」
想い人……?
そんなの居たっけ? いや、クリエは当然として仲間は仲間だし……。
そんな事を考えていると俺はふと気が付いた。
もしかして……。
「カインの事か!? 違う! 彼は――その、俺にとっては……」
「言わなくていい、辛いだろう?」
だから違う!
ノルンを失った貴女とは全然違うんだって!!
そう言いたかったが、ノルンの名を口に出すのは彼女を傷つける行為だ。
俺は敢えて黙り込み……。
「それで今回は大事な話があるんだ」
話を切り出す事にし、彼女の答えを待つ。
すると……。
「大事な話? 領主受け継ぎの件なら……」
「そうじゃない、兵士はどのぐらいの練度になってる?」
尋ねると彼女は考えるそぶりを見せ……。
「いや、まだ全然だ……魔法はともかく元々は農民出の兵士も居るからな」
「そうか……」
急いでほしいとは思うが……。
焦っても駄目だろう……しかし、そうも言っていられない状況になるかもしれない。
「なるべく急いでほしい」
「そうか、分かった」
俺の無茶要求に彼女は首を縦に振ってくれた。
申し訳ない、そんな気持ちにはなったが、これは街を守るためだ。
何とかしてもらうしかないよな?
それに、ファーレンとベルゼの動きは調べてもらってるが……。
他の国が干渉してこないとも限らない。
なるべく早く足元を固めておかないとな……。




