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368 勇者の不安

「クリエ……?」


 俺は随分長い間彼女に見とれていたと思う。

 だが、はっとし、彼女の名前を呼ぶとピクリと反応した彼女はゆっくりとこっちへと目を向けた。


「きゅーらちゃん!」


 一瞬固まってしまった。

 彼女は今キューラちゃんと呼んだのだろうか?

 もしそうであれば、彼女の呪いは……いや……。


「きゅーら、ちゃん?」


 俺が考えていると不安そうな声で俺の名前を呼ぶ。

 慌てて彼女に向けて笑みを作ると彼女は心底ほっとしたように表情を歪めた。


「どうした?」


 以前と変わらないクリエがそこに居る。

 そんな風に思えて俺は彼女へと近づいた。


「寝れないのか?」


 俺が問うと彼女は頷き――。


「こわい……」


 それだけを呟いた。

 怖い、怖いとは何だろうか? なんて言う必要はないだろう。

 恐らく……。


「怖い夢か……クリエ、もう大丈夫だ」


 そう言うと彼女は首を横に振る。

 そして、何かを言葉にしようとしたが、口をパクパクと動かすだけだった。

 そんな彼女はすぐに暗い表情へと変えるとがっくりと項垂れた。


 言葉にできない。

 そういう意味なんだろう。

 だが怖いとは一体何だろう?


 夜に怖い物といったら夢だと思ったが……。


「キューラちゃん、こわい……」


 もしかして俺?

 俺の事が怖いのか?


 俺はそんな事が頭に過ぎりまさかと思いつつ彼女に尋ねてみる事にした。


「俺が怖いのか?」

「…………」


 彼女はゆっくりと首を横に振る。

 そして、すがる様に俺にくっ付くと俺は彼女に包まれてしまった。


「皆……いない、こわい……」


 そうか……彼女は目の前で仲間を失った。

 俺だけじゃない彼女もだ。

 だから怖くないはずが無かった……。


「俺は君の近くに居る」


 大丈夫だとは言えない。

 何時死ぬか分からない……今はそんな状況だ。

 だけど……。


「俺は魔王だ……大事な者や物を守るのが王様だろ? だから俺は死ぬ気は無い……ずっと守ってやる。だから今日は寝てくれ、ほら一緒に寝れば怖い夢もみないから」


 俺は彼女を安心させるためにそう口にした。

 するとクリエは小さな声で「……うん」とだけ返事をし、共にベッドへと入った。

 不安なのだろうすがり付く彼女を見つつ俺は思う……。


 そうだ忘れてなんかいない……俺は魔王になる。

 今まで魔王を倒して魔王になろうとしていた……。

 だけど、それは魔大陸での話だ。

 勿論今の魔王を放置する気は無い……。

 だけど神大陸に魔王が居てはいけないという訳ではない。

 それに王様になるのならこっちの方が都合がいい。

 なら、此処に俺達の国を建てる。

 ノルンが残してくれたこのスクルドを国にする。


「絶対にもう誰も傷つけさせない……クリエも皆も……」


 そうだ、俺は俺には守るモノが多くなってしまった。

 この小さな、それも未熟な人間がだ。

 だけど逃げるわけにもいかない。

 俺は……そう思いながらゆっくりと目を閉じる。


「だから、俺は死ねない。死なない……」


 それは願いだ。

 どうなるかなんて分からない。

 だけど、不思議と口に出すと強くなれた気がした。

 あくまで気のせいだという事は分かっている。

 それでもそういう気がしたんだ。








 その日俺はアウクに呼ばれると思っていた。

 だが、夢を見る事は無く目を覚ます。

 横には俺にしがみ付くようにして寝るクリエといつの間にか居たファリス。

 いつもの朝だ……。

 こんな朝がいつまで続くのだろうか?

 長くは続かない……。

 そう思いつつも俺はベッドを抜け出そうと試みる。


「……起こさないように」


 小声でそう言いつつ抜け出そうとするも無理だった。

 どう足掻いても二人を起こすことになってしまう。

 ファリスは表情を窺えないが、クリエは気持ちよさそうに寝ている。

 できれば起こしたくない。

 そう思ったのだが……。


「キューラちゃん、ご飯だよ? って……また?」


 そんな時現れたのはチェルだ。

 彼女は呆れつつも二人を起こしてくれるとさっさと何処かに行ってしまった。

 恐らくは食堂だろう。

 それにしてもこの頃チェルが起こしに来るのは何故だろうか?

 そう言った事は兵士かメイドに任せておけばいいような気もするが……。


「まぁいいか……」

「ぅー」


 眠そうな二人を連れ俺は食堂へとむかう。

 食事を取り、終えた後に執務をする……。

 いつも通りの日常だ。

 だが……。

 心配な事は色々あった。

 その内の一つは――。


「報告です」


 執務をしていたところ、フリンより告げられる。


「なんだ?」

「昨日ドラゴンの幼生体が居た場所へと兵士を派遣しましたね、あの事ですが……」


 どうしたんだろうか?

 もしかして誰も帰ってきていないとか?

 俺は不安を覚えつつも耳をかす。

 するとフリンは――。


「ドラゴンの死体は見つかりました。と言っても捕食中でしたが」

「ああ、それで……?」


 続きを促すと彼は困った様な表情を浮かべ……。


「足跡があったそうですが、それは途中で途切れているとの事です」


 なるほど、風の魔法でも使ったのか?

 だが、その足跡の持ち主がドラゴンと関係あるとは限らない。


「…………でも、いやな予感がするな」


 俺はそう思い、思わず呟くのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] 不穏だけど、それはおいておいて弱々しいクリエかわいいな
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