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364 ドラゴンパピー

『ピィィィィィィィ!!』


 可愛らしい咆哮を上げるドラゴン。

 手名付けたらと言われたがそもそも好物が分からなければ無理な話だ。

 町の事を考えるなら戦うしかないが……幼生体と言ってもその力は侮れない。

 いくらスライムと言っても食べられてしまえば終わりだろう。

 そして、こっちの戦力で頼りになるのはライムとパッツァだ。

 トゥスさんの銃は皮膚を貫く事は出来ない。

 ファリスの鎌も同様だ。

 チェルはそもそも戦うのが苦手でクリエは万全であってもやはり皮膚を傷つける事は出来ないだろう。


「グレイブ!!」


 俺は魔法を唱え、ドラゴン目掛けて撃ち出す。

 しかし、その魔法を避ける事すらしなかった。


「チッ!!」


 当然だ。

 避ける意味が無いから避けない……。

 魔法は当たったが砕け、そこには傷一つないドラゴンが苛立ったように尻尾をダンっと地面へと叩きつけた。

 すると幼生体だというのに地面は抉れ……。

 やはり侮ってはいけないという事を再確認させられた。


 さて、どうする?

 俺ははっきり言って戦力外だ。

 詠唱で魔法を強化してもどの程度通じるかが分からない。

 まして、そんな事をしたら湖が潰れかねない。

 つまり、魔法は最低限の物しか使えない訳だ。

 そんな状況で……。


「どうする?」


 俺は自分自身に問いかける。

 魔拳と言う言葉が浮かんだが、すぐにそれも否定した。

 確かに範囲も考える必要もなく、火力に優れた魔法だ。

 だが、皮膚を貫けるかどうかは分からない。

 その上、近づくのだから喰われる可能性は高い。

 ドラゴンはでかい図体ではあるが、すばしっこい。

 だからこそ、下手に近づくというのは無しだ。


「パッツァ! 湖の中へ!!」


 俺はパッツァを湖の中へと入るように言うとすぐにライムを抱き上げる。

 下手に近づく事は出来ない。

 だが、近づかなければ恐らくその場に拘束する事すら難しいだろう。

 下手に動き回られたらそれこそ問題だ。

 俺はそう思い抱き上げたライムへと告げた。


「頼む、俺の身体を包んで守ってくれ……」


 スライムには打撃が効かないという特性がある。

 いや、正しくは氷の魔法以外は効かない……つまり、ドラゴンの息吹も切り裂く爪も貫く牙も効かない。

 だからこそライムに身を守ってもらえばそこそこ戦えるのではないか?

 そう思ったのだが……。


『………………』


 恐らくは承諾をしてくれたのだろう、袖から服の中へと入っていくライムを見つつ俺はその選択を後悔した。


「つ、つめ……ひゃ!? ちょ!? ぁ……ぁぅ……!?」

「キュ、キューラちゃん? 変な声上げてるけど……」


 明らかに引いた様子のチェルの声が聞こえ……。


「キューラお姉ちゃん…………ライム、いじるならもっと激しく」


 何を注文しているのかな!? 君は!? というかいじられてない!

 冷たくてびっくりしてるだけだ!!


「…………」


 そしてトゥスさんの視線が痛い。

 そんな事を考えていると……。


「…………」


 クリエにもじっと見つめられており……俺は途端に顔に熱を感じた。

 こんな事しなければってひゃぁ!?


 ライムに悪気はないから怒れないしな……。


「…………うへへ」


 いや、この勇者もしかして意識戻ってるんじゃないか?


「ぅぅ……ふぁ!?」


 いや、うん……そんなこと考えてる場合じゃないな。

 なんか熱っぽくなってきた。

 いや、うん……今度からこれは止めよう。

 絶対にやめよう。


「はぁ……はぁ……はぁ~」


 俺はなんとか息を整えると魔物を睨む。

 すると魔物は首を傾げこちらを見ていた。

 まるで何をしているの? と言いたげな目だ。

 まさか魔物にまで反応されるとは思わなかった……。


「キューラちゃん……その、えっと……」


 チェルは何かを言いたいようにもじもじとしているが、言い辛い事なのだろう。

 耳まで真っ赤にしながら明後日の方へと目を向けている。

 分かってる、分かってるから……。


「何も言わないでくれ……」


 俺はそう言うと改めて拳を握り魔物へと迫る。


 やれることは決まっている。

 魔拳などの強力な魔法は使えない。 

 だが、今の子の状態なら接近しても恐らく大丈夫だろう。

 そう思い俺はドラゴンへと近づいた。


 当然ドラゴンも馬鹿ではない。

 近づいてくる俺に反応しその鋭い爪を振り下ろして来た。

 間一髪のところで避けたが、地面は抉れている。

 普通に当たったらただじゃすまないな。

 そう思いながら、俺は体にまとわりつくライムへと手を当てる。


「頼むぞ……うひゃぁ!?」


 声をかけるとライムは反応し震える。

 だから、なんというか……ある意味拷問だなコレ……。


「ああ……あれ、大丈夫かな?」

「さぁね、案としては良いけど、あんなのでまともに動けるのかね」


 チェルとトゥスさんはそんな事を言っており、俺は思わず黙り込んでしまった。

 実はすごく動きづらい。

 判断を早まってしまった……。

 俺はそんな後悔を浮かべながら、今度は尻尾を除け、グレイブの魔法を唱えたのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] みんなからのこいつ何やってるんだと言う視線が刺さる( ˘ω˘ )
[良い点] 更新分まとめ読み。 重めの展開ですが、「役割」なんかも出てきてより話の根幹に近づいてきているのかなーと思ってます。 おじいさんから貰った本もしっかり有効活用してますね。もっと使えばいいので…
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