36 燃える瞳に映るのは?
使い魔ライムの手を借り、キューラは無事酒場へと出る。
その外には闇奴隷商である酒場の主人を捕らえたクリエ達の姿があるだろう……
そう思っていた彼が目にしたのは血を流し倒れる少女、クリエ。
そして、肩を負傷したトゥスだった……キューラは自分の所為だと責めつつも怒りをあらわにする。
すると彼の左の瞳は再び熱を帯び――何故か右目が異様な痛みを訴える――
右目を閉じた彼の目の前に現れたのは――?
生きている? 生きているだって? 本当に? いや、この状況でそれは愚問だろう。
だが、こいつは俺の妄想……夢の世界に出てきたはずだ。
なのに何故ここに?
「――――!!」
「グェ……」
男により俺の首が絞められ、潰されたカエルのような声が俺から発せられる。
それにより一瞬、右目を開けると目の前に居たはずの魔族は消え、代わりにまた激痛が右目を襲い閉じる。
すると再び魔族の男は姿を見せた。
これは、どういう事だ?
『このまま、みすみす見殺しにするつもりか?』
それは駄目だ……クリエには奇跡は使わせない。
勿論、死なせることは出来ない……他の方法を見つけて魔王を倒さないといけないんだ。
俺の思考を見ているかのように魔族の男は高笑いを上げ――
『それでいい、ならば使いこなして見せろ………………我が――』
なんて言ったんだ? よく聞き取れなかった……
『精霊の業火よ、我が拳に宿りて焼き尽くせ――』
なん、だ……? そんな詠唱聞いた事も無い。
それに、魔法の名がないぞ? そんな魔法使える筈が――
俺の言葉を理解しているはずであろう妄想の人物は悪人面を張り付けたまま徐々にその身体を薄めて行き――俺の視界に残ったのはクリエが倒れている光景。
……あれは俺が望んだ妄想か? それとも何かの魔法か?
『ですから、貴女で決めました……』
いや、悩んでる暇はないはずだ……例え妄想だろうが、現実だろうがクリエは倒れ、トゥスさんは片腕では恐らくまともに戦えない。
俺だって捕まってしまっている……だが――
『駄目です。従者となった以上、その身の安全を保障するのが勇者の務めでもあります……』
だが、クリエはそう言った……同時に守ってもらう事もあると言ったんだ……
なら――俺は藁でも何でもすがってやる――!!
「おい、ガキいい加減におとなしくしやがれ!!」
酒場の店主はいい加減俺を捕らえるのに疲れてきたのか、一瞬だが拘束が緩んだ。
やるなら――今しかない!!
「精霊の業火よ――我が拳に宿りて焼き尽くせ!!」
僅かな望みをかけ唱えた詠唱……本来ならそれだけで魔法が使える訳が無い。
だが――
「なっ!?」
詠唱の通り俺の両手には炎が灯り――
「ぎゃぁぁぁあああ!? 火ぃ!? 火ィ!! なんで詠唱だけで魔法が!?」
あまりの熱さに店主は俺から離れ何とか脱出に成功したが――
「グゥ……!?」
熱い、じりじりと腕が焼かれる……やっぱりこの魔法失敗してるのか?
このままじゃ俺も動けなくなる、なら――
「うぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
その前に殴り飛ばすだけだ!!
「ひ、ひぃぃぃぃ!?」
そう思った時、男は銃を構え――俺は咄嗟に燃え盛る腕で身を庇う――
すると、辺りに轟音が鳴り響き、そのすぐ後に何かが焼ける音が聞こえる。
どうやら、銃弾を焼いたって事か? おいおい、この炎どれだけの熱を持ってるんだ? 俺の腕もう使い物にならないんじゃないだろうか?
その証拠に先程まで感じていた痛みももう感じない……
だが――そんな事より――
「今は! お前をぶっ飛ばして――!! クリエを助ける方が先だぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
俺の振り抜いた燃え盛る拳は男の顔面を見事に捕らえ――嫌な臭いと感触を感じつつ俺は残った力を拳へと伝える――
「らぁぁぁぁぁぁ!!」
意気込んで出している声のはずなのに何処か可愛らしい俺の声はこの際気にしない事にしつつも――轟音と共に壁へと叩きつけられた男の顔面には焼け焦げた跡が目立つ――
起き上がって来るならもう一発お見舞いしてやる。
そう思っていたが、どうやらそれは要らない心配だったようだ……
「っ……」
それにしてもこの炎は消えるのか? 魔法を解除してみないと分からないな――
俺は練り込んだ魔力をほどくように意識すると徐々にではあるが炎は収まっていく、良かった。
ずっと燃えたままってのは流石にないか、にしても……
「酷い火傷だな……」
やっぱりさっきの感覚は気のせいじゃなかったか……いや、今はそれよりも――
「トゥスさん! アイツを頼む――」
「あ、ああ!!」
俺はトゥスさんへと気絶している男を頼みすぐにクリエの方へと走る。
「クリエ、クリエ! おい!」
呼んでみるが眉をひそめるだけで起きる気配はない……良く見たら出血量は多くない
だが、血は出ている早く止血をしないと――とはいえ、何かないか?
俺が何かが無いかと辺りを見ていると――
「お嬢ちゃん! 勇者の嬢ちゃんの身体には弾が入ってるはずだ! そいつを取り除かないとまずい!!」
トゥスさんのそんな声が聞こえ――
「まずいって何が!?」
「弾は精霊石で出来てるんだ! 精霊石は魔族やその混血、エルフ何かには特に害にはならない! けど、人間やドワーフの体の中に精霊石が入るとそいつ自身の魔力が搔き乱される――」
「えっと……つまりどういうことだよ!!」
魔力が搔き乱される? そうなるとどうなる?
いや、そもそもそんな話は初めて聞いたぞ――
「エルフの暗殺術の一つだ……最悪、死ぬ」
「――っ!!」
頭を金槌で殴られたかのような感覚を感じつつ――俺は急いでクリエの傷を確かめる。
撃たれた場所はどうやら肩……致命傷ではないはずだ、だけど今聞いた内容ではそうではない――
「っ!! ライム!! この傷口から銃弾を探して取り除け!!」
取り出すためのピンセットなんかは手元にない、その上ナイフとかで切り開くとしても俺の手元には無い。
だとしたら、ライムに手伝ってもらうしかない、そう思い俺はこの日何度目かになる願いを告げる。
すると、ライムは俺の肩から飛び降り、その身体でクリエの傷口を覆った。
頼む――頼むぞライム……俺はこんな所でクリエを死なせるなんて……そんな結果は望まない、させたくはない。
俺達で絶対に……助けせて見せる!