362 スライムたちの仕事
「ベリィ、頼んだぞ……お前は此処で水を浄化してくれ」
スライムの一人にそう言うと俺は近くに居る兵へと目を向ける。
彼らは姿勢を正し、緊張している様だ。
「毎日3回ベリィにご飯を頼む。スライムだから綺麗に消化するし林檎を中に入れてやってくれるか?」
「は、はっ!」
彼らは声をそろえて答えてくれた。
さて、次は……。
「井戸だな」
「井戸ですか?」
護衛について来てくれた兵士は首を傾げた。
何故、井戸に向かうのかが気になるのだろう。
「水はそのままじゃ飲めないだろ? だけど、スライムが中に居れば飲むことが出来る。井戸の中の水は冷たいし飲み水に出来るなら暑い日なんかは嬉しいだろ?」
「……はぁ?」
うーん……どうやら納得してもらえてないみたいだ。
「君は訓練の後冷たいものが欲しくないか?」
「いえ、冷たいものと言われましても……」
そうだった……。
この世界じゃ冷蔵庫とかが無い。
当然アイスも無い……とういうか砂糖や塩は良い値段がする。
「キューラちゃん、その……火照った身体を冷やしたい、ってこと?」
「ああ! それでしたら水浴びぐらいはしますね」
まぁ、その通りなんだが……。
「その時に飲めたら良くないか?」
「それは、そうですね冷たい井戸水を飲んでみたいとは何度か思いましたが……」
「なら、井戸をスライムに浄化してもらおう」
いくら蓋をしていると言ってもゴミは入ってしまう。
だが、それでもスライムが居れば問題は解決だ。
ゴミ自体は掃除しないといけないけどな。
「じゃぁ行くか……」
俺はクリエとファリスへとそう言うと二人は揃って俺の傍に来た。
井戸は此処から少し歩いた所にある。
「井戸の方はマスカット頼むぞ?」
そして、ライムとは微妙に色が違うスライムへとそう言うとマスカットはプルプルと震えていた。
井戸へと着いた俺たちは桶にマスカットを入れて降ろす。
「これで井戸の水が……」
「すぐには飲めないが……時間たてばな」
そう言うと俺は地図を見下ろす。
貯水庫は北、井戸は中央……そして、門は井戸の方だが少し離れている。
水路を引きたいのは西と……。
壁も強固な物を建設したいが……水路の関係で西には作れないな。
西の方に街を伸ばすとして……。
「キューラちゃ……様」
急に名前を呼ばれ俺は顔を上げる。
するとそこにはあの宿に居た二人の女性メアリーとエウレカが立っていた。
「どうしたんですか? って買い出しですか、ご苦労さまです」
俺は頭を下げて彼女達にそういうが、どう見ても女性が持つには大変そうだ。
「君と君この人達の荷物を運んでくれ」
俺は護衛の兵二人にそう言うと二人の兵は頷き……。
「「はっ!」」
彼らは俺の言った通り、二人の手から荷物を受け取ろうとする。
「い、いや、わ、悪いですよ!?」
「そ、そうだよ、じゃなくてそうです!」
何故敬語になっているのだろうか? 疑問に思いつつも……。
「短い間とはいえ、世話になったんです。それ位は当然です」
とはいえ、本当は俺が持っていきたい所だが、今は忙しいからな。
「では……」
俺は頭を下げてその場から去ろうとするのだが、二人は変な声をあげてきた。
「どうしたんですか?」
尋ねると二人は申し訳なさそうな顔をして……。
「わ、わざわざ護衛を付けていただく必要は……」
「そ、そうです、そこまでしていただく事は――」
ああ、もしかしてこの二人……。
俺が領主だから気にしているのだろうか?
別に関係ないのに……。
俺がそう思うとチェルがくすりと笑った。
「キューラちゃんが良いって言ってるんだし大丈夫だよ」
「で、ですが……」
チェルの言葉にやはり躊躇している様子の二人。
確かに俺はこの街の領主になった。
だが、一泊の恩を忘れた訳ではない。
「何も特別扱いと言う訳じゃないですよ、だからこれぐらいは――」
俺がそう言うと二人は「いや、特別……」と呟いた。
まぁ、そうなんだけどな……。
それでも受けた恩をあだで返すつもりはない。
「それよりも遅いと支配人が心配しますよ」
俺が笑顔でそう言うと二人は顔を合わせ慌て始めた。
そして――。
「し、失礼しました!」
と言い荷物を地面へと置き頭を下げる二人。
兵士たちはその間に荷物を手に取り……。
「「あ……」」
二人はしてやられたという表情を浮かべたが……。
俺は何も言ってないからな?
だが、持たれた以上結構ですという事は二人にはできなかったのだろう。
何より時間が気になったのだろう、その場から去って行った。
「さて……」
俺は彼女達を見送ると仲間達へと向き直る。
「じゃぁ、最後の場所に行こう」
そう言って俺達は水路建設のための水源へと向かう……。
と言っても別に特別遠いわけではない。
かと言って昼を過ぎてしまったら帰りが遅くなってしまう。
今ならまだ大丈夫のはずだ。
後はそこの水さえどうにか出来れば……。
水の問題は解決できるはずだ。




