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360 転生者

 その日の夜。

 俺はあの墓場に居た。

 墓の前では一人の男が待っている。

 彼の名はアウク・フィアランス。

 いや、トゥスさんの話だとアウク・クーアと言った方が良いのか?


「よう……アウク」


 俺が彼へと話しかけると、彼はニヤリと笑みを浮かべた。


「駒は揃った……」

「俺達はお前の駒だってのか?」


 良い様に使われていた。

 そういう事だろうか? 俺はアウクを睨みつつ、近づいた。


「違うな、俺には必要のない物だ……」

「そうだな、お前はもうこの世にはいない、だけど……お前の思い通りになるならそれは駒で間違いない」


 そう告げるとアウクは俺を睨む。


「この世界は狂っている。たった一人の勇者にすべてを負わせ、存命している。俺はその事が気に喰わない」

「…………」

「弱者をいたぶるのは嫌いだった……。だが、俺は親父に従い魔大陸からこっちへと渡ってきた……そして、戦場とした村では彼女が居た……惚れてしまったんだ」


 なるほど、それで伝承通り彼は勇者の従者になったって訳か……。

 だが……それがなんだ?


「お前は守れなかったんだろ?」

「そうだ、俺は守れなかった……俺と同じ転生者、そいつの所為でな」


 ……は?


「まて、お前と裏切者が転生者だって!? どういう事だ?」

「奴はずっと狙ってたんだ……勇者の従者であり、魔王を討伐した一行だという事を……楽な暮らしが出来るからな……だが、俺は違った」


 彼はそう言うと……首を横に振った。


「もううんざりだった、たった一人の犠牲で何も変わりはしない……残されたものがどんな気持ちになるか分かるか? 俺には分からなかった……ただ、残してしまった近しい者へどうか俺に関する記憶だけ消えるようにしてほしいと願う以外はな」

「…………つまり、お前は勇者の転生者だというのか?」


 俺はそう尋ねると彼は首を横に振る。


「違う、この世界ではない勇者でもない、俺は別の世界で人柱になった……そんな事はどうでも良いがな、だが……アイツだけは助けたかった」

「それで?」

「アイツは平和な世界から来たと言っていた。だが、その世界では人同士の争いが絶えなかったそうだ。武器を持たない国でさえ、刃のない武器を見出し人を殺す」


 平和な世界?

 武器を持たない国……まさか、日本の事じゃないよな?

 一応武器はあるし、包丁とか日常の道具でさえ使い方によっては人を殺める道具になる。

 とするとそんな世界もあったのか?


「奴は随分と上にこだわっていた……最初こそは自分達の力で魔王を倒せば成りあがれると笑っていたさ、だが……親父の力を知ると尻尾を丸めて逃げたんだ」

「…………」


 なるほど、怯えて確実な方法をとったのか……。


「皮肉な事に奴は殺されたがな、ターナによって……」


 ターナ……つまりトゥスさんの家族って事だな。

 それにしても、この世界には転生者が何人も居るのか?


「なぁ、転生者は何で生まれる?」

「分らん、偶然かそれとも必然か……記憶を持ったものは少なくはない……お前もそうなのだろう?」


 彼は気が付いていたみたいだ。

 そして……。


「お前はあの世界から来たのだろう? アイツと同じ平和な世界から」


 俺を疑うような視線を向けてきた。


「そうか……そいつは日本から来たんだな?」

「ニホンか……懐かしい響きだ……奴は言っていた。平和なのに人を貶める者が多い国だと……苛められたと……だからこの世界が好きだともな」


 苛め……か……。

 確かに苛めはあるだろう、だけどそんなのは何処に行っても同じだ。


「……だから、常に上であることを望んだんだな」


 きっとひどい苛めだったんだろう、俺は幸い虐められてはいなかったから、彼の気持ちはくんでやることが出来ない。

 何故なら俺はただの引きこもりだ……だが、外に出れば一応友人と呼べる人もいた。

 一緒に居て楽しいとは感じなかったが居たには居たんだ……。


「お前はどうなんだ?」


 アウクは表情を変えず俺を睨みながら再び問う。


「上に行く事なんてくだらない……俺は上であり続けたい訳じゃない……」


 その人は悩んで、悩み抜いてその答えに行きついたのだろう……。

 だけど、俺は違う。

 俺は俺で……俺の目的がある。


「俺は勇者とか従者とかどうでもいい、ただ、あの子を……クリエを守りたいだけなんだ」


 もう、勇者とかは関係ない。

 俺はクリエという女の子を守りたいだけだ。

 彼女でなければ意味が無い。

 俺は俺の素直な思いを告げる。

 するとアウクはニヤリと笑い。


「そうか、嘘偽りはないな?」

「ある訳が無い、ついでに言っておく、俺は勇者を守りたい訳じゃない、クリエはもう……」


 勇者じゃない。

 彼女に奇跡を起こす力はない。

 だからこそ、勇者を守るというトゥスさん達の言う役割は適応されないだろう。

 だが……。


「とにかくお前達が作った役割、そんなのにも興味はない」

「……そうか、なら何も言う必要はない」


 彼はそう言うとその場から去って行く……。

 そして、振り返ると……。


「次に会う時が最後だ……楽しみにしているぞ……キューラ」


 そう言って消えて行った。

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[一言] クライマックスが近い(゜ω゜)?
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