359 役割
トゥスさん、彼女の役割。
それが殺す事……無差別ではないが、勇者の敵を殺す事。
「……こっちの嬢ちゃん、フィアランスは」
チェルの役割……。
「私は勇者に寄り添い支える者……それが、役割」
「なんなんだよ、その役割って! それじゃ――」
今まで従者の子孫と言うのは目立たなかった。
いるのかも分からないし……始末されている可能性だって高かった。
だが、彼女達は列記とした子孫だ。
けど、その子孫に役割?
一体なんの為に……。
「こいつはアウク達から作られた役割でその子孫に伝えられている。三つの家系にね」
「三つ?」
アウク達……アウクって……そうか、アウクの名前はフィアランスだ。
彼らが取り決めた役割。
勇者を守るため?
「これはね、四人の従者が一人の勇者を守るためのもの」
「ちょっと待ってくれ……なんで三つの家系なんだ?」
四人の従者と言う事は四家系無きゃおかしい。
そう思ったのだが……。
「それは簡単さ、この子を……いや、正しくはこの子の祖先を隠す為さ」
「……は?」
そう言ってトゥスさんが示したのはチェルだ。
チェルの祖先を隠すため?
「この子はね、勇者の子孫だ」
「……え?」
勇者の子孫? いやだって……。
「勇者は奇跡を使ったら死……」
「子供が作れない訳じゃない、その代の勇者は男でこの子の祖先と良い仲だった……」
トゥスさんは昔を懐かしむ様に遠い目をしている。
「アウクと親父と勇者とそいつの祖先、そして……もう二人人いたね、ドワーフの奴は目立たなかったけど、そいつも良い奴だった」
「…………」
彼女はそう言うと瞼を閉じしみじみと語る。
「奇跡の事を知り、それを使わせないと誓っていた……だけど、一人の裏切りで……勇者は奇跡を使わざるを得なかった」
「どういうことだ? つまり、その代は五人いたって事か? 従者が……」
彼女は首を横に振る。
「あれは契約を交わしてはいたが、従者なんかじゃない、その子の祖先とアタシを人質に取り、勇者を殺した……」
「……なん、だって?」
彼女は唇を噛みそこから血が垂れる。
「そして、アタシの父は気が狂い。人を殺す鬼になった……役割を与えられたんだ」
「その時にご先祖様はもうお腹に赤ちゃんが居たんだ……だけど、それは勇者の子、世界に仇を成すかもしれない子……だから、狙われないように隠す必要があった」
それで、四つの家系と言うのは分かった。
だが、何で伝えられているのが三つ何だ?
「そして、アウクは自らをアウク・フィアランスと名乗った……家族離れて、あの男はフィアランスの腹に居る子が自分の子だと偽った。勇者が死んで意中の女性を射止めたとせいせいしているふりをして……そして、役割を作ったというわけさ」
アウクの名前が偽名? つまり、その役割が伝えられていないのは……。
「アウクの元の名前、それが伝えられていない所なのか?」
「そうだよ、それだけはただの役割で終わらせちゃいけない、要となる者だ……」
彼女はそう言うと俺を見つめ――。
「それがクーア……勇者の傍で決して勇者を裏切らず守り通す者……。かつて敵であった奴と同じように自分の意思で勇者と共に歩むものでなくてはならなかった……」
クーア……。
クーアだって!? つまり、俺はアウクの本当の子孫?
いや、それなら納得がいく……チェルに関しては……だ。
何故魔族の血を持つはずのチェルが混血じゃない理由が分かっただけだ。
「い、いや、それ一体どういう事だよ? 意味が分からないって!」
「言った通りだよ、奴の本当の名はアウク・クーア……魔族の王の息子さ……」
つまり、俺は……。
「やっぱり私には納得できない! キューラちゃんは何も知らないんだよ!? それなのに――」
「今、知った。それで良いだろ?」
俺が困惑する間も彼女達の会話が続く。
だが、俺はそれをちゃんと聞く事は出来なかった。
意味が分からなかったからだ。
俺がアウクの子孫? そして、勇者を裏切らず守り通す者? 初めから決まっていた?
「……なんだよ、それ……」
「それがアンタが聞きたかった役割だ」
何なんだよ!!
「そんなのおかしいだろ!! なんでそんな役割何て――!!」
「悔しかったのさ、守れなかった事が……」
彼女はそう言うと再び遠い目をした。
「勝てない戦いじゃなかった。だけど、人の被害は出ていた……それを貴族が見過ごすはずがない。奴らは自分が住みやすいように街を作ってるからね。だからこそ……魔王が邪魔で奇跡を使わない勇者も邪魔だった」
「……そんな、そんなのって」
無いだろ。
確かに奇跡を使えばすべて解決する。
だけどそれは一人の命を犠牲にしての解決策だ。
問題を先送りにしてその対処が出来なかった時の事をまるで考えていない。
何時かその日が来るとしてもお構いなしだ。
「降りたければそれでも良い、アタシは強制はしない」
なんだよそれ……そんな事できる訳ないだろ?
「俺はクリエに誓ったんだ守ってやるって……」
俺はクリエが好きだ。
だから彼女を守りたい……。
「けど……」
「けど、なんだい?」
俺は一つ納得できない事があった。
「そんな役割には従わない。俺は俺の意思でクリエを守る。勇者だとかそんなのは関係ない、俺が守りたいのは勇者じゃないクリエだ……」
俺がそう言うとトゥスさんは満足そうに笑い。
チェルは何処かほっとしたような表情へと変わった。




