表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
374/490

357 臆病な自分

 それからアウクは何も言わず、姿も見せなかった。

 今の俺が何を言っても聞く耳を持たない。

 そういう事だろう。


「…………」


 俺は何をしていたんだ……。

 自分で自分が情けなくなる。

 そう思いながら俺は目を瞑った。





 そしてゆっくりと目を開けると其処は暗闇だ。


「………………」


 起き上がる事もせずベッドの中で呆然と天井を見つめる。

 すると、小さな小さな泣き声が聞こえてきた。


「…………カイン、君……」


 チェルだ……彼女の声だ。

 彼女は俺を起こさない為だろう、小さな声で一人泣いていたのだ。

 辛いはずなのに……。

 俺の事を気にかけて……。


 本当に俺は何をしているんだろうか?

 なさけない……。


 確かにカインは死んだ。

 それを何とも思わないなんて無理だ。


「…………」


 だからと言って、俺は立ち止まって良い訳じゃない。

 それは分かっていた。

 だけど……。


 私は……怖くなった。


 そんな声が内側から聞こえた。


 怖いよ? だって、誰かが死ぬ……。

 なら、全部忘れてもう終わりにしたい。


 それは俺の中に生まれた願望なのか? それとも別の物なのか、分からなかった。

 それでも、それは俺の言葉だという事は分かる。


 ねぇ、もう止めよう? これ以上は私が壊れちゃうよ。

 もう……辛いよ……。


 本当はヘレンの時から我慢をしていた。

 そんな事は分かっている。

 今まで誰も死ななかったのに、彼女を始めとし……俺は仲間の死に触れた。

 実際に彼女の死体を見た訳じゃないが、状況から言ってそれが正しいだろう。

 だからこそ、俺は……。


 逃げたいよ……もう、頑張ったよ?


 そう、逃げたいんだ。

 だけど……逃げたらクリエはどうなる?


 …………。


 俺の問いに対し、内側から聞こえてきた声は黙り込む。

 つまり、その声も分かっているという事だろう。

 なら、俺は迷う必要は無いはずだ。


 私は君だよ、だから壊れちゃうのは嘘じゃないんだよ? 


 そんな事は予想が出来た……。

 だけど、俺が君だというのなら俺の気持ちだって分かるだろ?


 …………。


 彼女は黙り込む……自分がここで立ち止まってしまう事で後悔することも分かってるからだ。

 だって……。


()達は元は一つ……』


 その言葉はほぼ同時に発せられた。








 チェルに気がつかれないよう私はそのまま眠る……彼女はきっと今の姿を見られたくないからこんな夜中に泣いてるんだと思ったからだ。

 翌朝目を覚ました俺は窓の外を見る。

 もう随分と日が高く上っている所為だろう……子供達は駆け回り、笑みを浮かべ遊んでいる。

 無邪気なもんだ。

 そう思いながら、俺はそれを見つめていた。


 不思議と女である俺は心の中で何かを言う事はなかった。

 不安定になるとまたあの人格が出てくるのだろうか?

 何故そう思ったか? それは単純だ。

 確かに彼女は俺だ。

 俺と同じ考えを持つ俺自身。

 だが、恐らくこれ以上自分自身が傷つかないように俺が作り上げたもう一人の人格と言った所だろう。

 二重人格。

 そう言った話は何度か聞いた事はあるが、まさか俺自身がなるとは思わなかった。


「気を付けないとな」


 皆はただ記憶を失い、性格が変わってしまった。

 そういう風に考えただろう。

 だが、違う……あれは俺であり、俺ではない……。

 昨日思ったのはあの子にも明確な意思がある。

 俺はそう思いつつ、胸へと手を当て……。


「ごめん、俺はまだ自分のしなきゃいけない事があるんだ」


 と彼女に謝った。

 カインの事は本当に辛い。

 だけど、俺よりもつらいのはチェルだ。

 そんな彼女にまで気を使わせてしまった……。


 申し訳ない、そう思うし……何よりも原因となった魔王はやっぱり倒さなきゃいけないんだ。

 俺が……俺達が魔王を倒す。

 それで、こんな悲しい事は終わらせる。

 そうしなきゃいけないんだ。


 俺は俺自身にそう言い聞かせるとベッドから降りる。

 すると物音で起きたのか机の上に顔を乗せ眠っていた少女は此方を向いた。


「キューラちゃん?」

「ごめん、チェル……」


 彼女の名前を呼ぶと何処かほっとしたような表情を彼女は浮かべた。


「良かったいつものキューラちゃんだ」


 その悲しそうな笑みが辛かった。

 目は赤くなっている彼女を見るのもまた、辛かった。

 だけど……。


「スライムたちは?」

「今は兵士さんに預けてるよ」

「そうか、ありがとう……」


 今はこの街をどうにかしないとな。

 俺はそう思いつつ立ち上がると二人の影が俺の前に立つ。


「ご飯……」


 その内の一人ファリスがお腹を押さえながらそう言った。

 もしかして、待っていてくれたのか?


「そうだな、先にご飯にしよう、クリエも行こう……勿論チェルもだ」

「うん……」


 寂しそうに頷くチェルと無表情で頷くクリエ。

 クリエの腕の中にはライムが居た。

 ライムは俺の頭へと移動をするとぽんぽんと飛び跳ねる。

 そうだな、落ち込んではいられないんだ……。

 今は食事を取って、自分のやる事をやらないとな。


 言葉は通じない。

 だけど、不思議とライムが何を言っているかは分かる。

 こいつも俺の仲間だ……。

 大事な、大事な仲間なんだから当然だよな。


「ライムにも心配かけたな……」


 俺はライムを手に取るとそう口にし、見つめながらこう伝えた。


「ありがとうな」


 すると嬉しそうに震えるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] もしかしたら"私"は純粋に今世のキューラちゃん…… いや、よく思い出したらTS転生じゃなくて普通にTSだったな(゜ω゜)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ