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355 名付けられた少女

「グ、グレイブ!!」


 私は目の前に出てきた魔物に対し、魔法の名前を叫ぶ。

 すると魔法は魔物に吸い込まれるように飛んでいく……。

 魔物と戦うのはこれで何度目だろう?


 何時戦っても怖いという感情は消えてくれない。

 断末魔を上げる魔物の声を聞くと私は思わず身構える。


「もう大丈夫だよ?」


 そう言って、私を気遣ってくれるのはチェルさんだ。


「……う、うん」


 彼女はどうやら大事な人を亡くしたらしい。

 その人は私も知っている人だった……と言う事なんだけど……。

 やっと思い出せたのはカインという名前だけ、それ以外どんな人だったのかを思い出せない。


「……ごめんなさい」


 私が謝ると彼女は悲しそうな顔をした。


「謝る事じゃないよ?」


 彼女はそう言って微笑むけど、その顔はやっぱりつらそう。

 私の所為で彼が死んだというのは間違いじゃないはず。

 だから、私はどうしても謝りたかった。

 だけど……結局彼女を悲しませるだけだった。


「もうすぐ街だからそんなに悲しまないで、ね?」


 彼女はそう言うと私の頭を撫でてきた。

 だけど、私はそんなに悲しそうに見えたのだろうか?

 そんな疑問を浮かべつつ、私は頷いた。


 クリエお姉ちゃんは此方を見ていたけど、何も言ってくれなかった。

 一体どうしたんだろう?

 いつもなら絶対に助けてくれるのに……。

 私はそう思いながら彼女を見つめる。

 だけど、彼女は表情を変えず何も言ってくれない……寂しさだけが私を包み……。


「…………」


 私は悲しくなった。

 一体、ライムもクリエお姉ちゃんもどうしたんだろう?

 ううん、きっと私が忘れているんだ。

 そう思いながら、ただただ辛くなった。

 なんで、私は……大事な事を忘れているんだろう?

 なんで……どうして……。

 一体どこで忘れちゃったんだろう?


「…………」


 そう思っていると私の視界に一人の少女が映る。

 彼女は確か、ファリスと言う子だ。

 一体この子は誰なんだろう?

 そう思いつつ……彼女を見つめていた。


「このままじゃ皆不安……」

「そうは言ってもね、どうするって言うんだい?」


 私に向けた言葉なのか、それとも皆へと伝えた言葉なのか分からない。

 だけど、ファリスと言う子は首を振ると……。


「ごめん、なさい……」


 手に漆黒の鎌を構えた。


「何をするつもりだい?」

「……見ても、思い出さない?」


 焦るトゥスさんを気にせず、ファリスと言う子は私にその鎌を見せつけてきた。

 そう言われても……いきなり物騒な物を見せられて思い出さない? と言われても……。

 そう思う私だったけど、その鎌には見覚えがあった。


「あれ……?」


 だけど、何時何処で見たのかなんて覚えていなかった。


「そう……」


 私が困惑していると彼女は悲しそうな目を浮かべ……すぐに妖艶な笑みを浮かべた。

 その顔は恐ろしく……私は思わず。


「ひっ!?」


 小さな悲鳴を上げる。

 するとトゥスさんが――。


「何をするつもりだい?」


 と低い声で口にした。

 だけど、それに応えるつもりは目の前の少女にはないようだ。

 彼女はくすくすと笑うと……。


「お姉ちゃんは私の事を覚えてない……なら、いらない」


 そう言って鎌を振り上げる。


「駄目!!」


 チェルさんは私を庇う様に前へと出て……。

 あれ? これ……私見たことがある?


 そう思っていると、その鎌は振り下ろされた。

 チェルさんごと真っ二つにするように振られた鎌……。

 だけど、それはすんでの所で止まり……。


「…………魔王様の言う通り、クズレモノは殺す」


 と彼女は呟く……。


 クズレモノとは私達混血の事を指す。

 魔族が使う言葉らしい……。

 魔族、魔王……ファリス?


「ファリスちゃん?」


 チェルさんが彼女の名前を呼ぶと彼女は微笑みながら首を振る。

 そして――。


「違う、クリュエル……私はクリュエル」


 クリュ……エル……。

 だれ? この子はファリスじゃないの?

 私は私の妹の事さえ分からない。

 その事に申し訳なさを感じながら彼女を見る。

 クリュエル……魔王、クズレモノ……魔族……殺す?


「……ぅぅ」


 頭が痛みを訴え私は丸くなる。

 前ほどは痛くない、それでも耐えるのは難しい痛みだった。

 だけど、以前とは違う。

 そうだ……この子はクリュエルだった……。

 私が私が? そう、私が助けた……魔王に殺されかけて……呪いをかけられてて……。


「魔王様の配下……」

「違う……」


 彼女の言葉は悲しそうなものだった。

 多分無理をして言ってくれたんだ、そう……思った。

 その証拠に否定すると僅かに瞳が揺れた。

 そして、何かを期待するような目で見てくる。


「貴女はファリス……クリュエルはもう居ない……」


 そう口にすると少し笑った気がした。

 ううん、気がしただけじゃなかった。


「キューラお姉ちゃん!」


 僅かに弾んだ声……。

 だけど、私が助けてこの子の名前を付けたというのは思い出した。

 そして、この子が私を慕って姉と呼んでくれるのも……。

 なら他の二人は?

 それに増えているスライムは? それはいくら考えても思い出せなかった。

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[一言] キューラちゃん……
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