354 失われた記憶
「どうするんですか?」
私が目を覚ますとあの人がそう口にしていた。
彼女はどうやらあのエルフのお姉さんに何かを言っているみたいだ。
「どうするも何もないだろう?」
「今のキューラちゃんに役割をっていうんですか!?」
私の事でなにかを話しているみたいだ。
「使えないなら置いて行くしかないね、足手まといはいらない」
「何でそう割り切れるんですか!! キューラちゃんはカイン君が……」
彼女はカインと言う名前を告げると黙り込んでしまった。
だけど、カイン? カイン……誰だっけ? 忘れちゃいけない人だったはずなのに……。
ぅぅ、頭が痛い……。
そう思って私はゆっくりと頭を抱える。
彼女達は気が付かなかった。
だから、私は痛みを訴える頭に手を当てたまま黙り込んでいた……。
すると……。
「……この先そんなんじゃやっていけないよ。人は死ぬそれは運命だ」
「っ!! ふざけないでください!!」
彼女が叫ぶのが聞こえた同時。
私の脳裏に浮かんだのは誰かが死ぬ光景。
顔も見えない、誰だか分からない……。
だけど、だけど……。
「ひっ!?」
急に不安になった私は堪え切れず。
「いや、いやぁぁぁぁあああああああああああ!?」
思わず叫んでしまった。
もうどうする事も出来なかった。
私はただただ叫び――。
「キューラちゃん!?」
あの人の声が聞こえた。
その後すぐ私は誰かに抱かれた。
「…………」
その人は声を一切出さなかった。
ただ、ただ、安心するような気がして……。
「ぅぅ……」
私はゆっくりと落ち着きを取り戻していく……。
一体誰が?
私が顔を上げると其処には――。
「クリエ、お姉ちゃん」
ただ私を見つめ微笑んでくれた。
「クリエさん……」
「全く、無意識だって言うのかね……」
面倒くさそうな声が聞こえた。
私が悪いんだ……。
そう思っていると……。
「キューラお姉ちゃんの悪口は許さない」
淡々とした声が聞こえた。
確かファリス、って子だ……。
「アンタもアンタだね……別に困りはしないだろう? 戦わなくなっただけだ」
「っ!!」
彼女はつかみかからん勢いでエルフのお姉さんに迫る。
「キューラは前にも悩んでいたからね、貯め込み過ぎたんだろう……全く、優しすぎるんだよ……それなら、もう傷つかないよう今回の事も全部忘れて静かに暮らすのも手だ」
その声は妙に優しいものだった。
「……トゥスさん?」
「……いつものキューラなら、アタシも無理言ってでも役目を果たしてもらうさ……だけど、今はただのお嬢ちゃんだ」
彼女はどうやら私を心配してくれているらしい。
「だけど、とにかく今は……安全な所に向かわせる。現状じゃクリエお嬢ちゃんだけじゃない、キューラも心配だからね」
「でも、どうするんですか? このままスクルドに?」
「キューラお姉ちゃん記憶、ない……」
スクルドと言うのが皆が向かっている場所らしいけど、どんな所だろう?
そう思っていると頭を抱えたトゥスと言う女性は……。
「故郷に連れて行くのが一番良いだろうけどね、それは出来ない」
「何でですか!?」
訴える女性はトゥスと言う女性につかみかかりそうな勢いだった。
「あのね、チェル……今はああでもあの子は領主だ……街を治める者、このまま失踪なんて出来る訳がないだろう?」
「あ……」
私が、街を治める? そんな疑問を思い浮かべても誰も答えてくれるわけが無かった。
一体私は何者なの?
ただの勇者の従者じゃなかったの?
一体、私に何が起きてるの?
怖い、怖いよ……。
「クリエ、お姉ちゃん」
私はただただお姉ちゃんにすがる様に抱き着いた。
するとクリエお姉ちゃんは何も言わず抱きしめてくれた。
そうだ、私はいつも彼女に助けられてきた。
だから……あれ? 私は……確かに助けられてきた。
だけど、何か大事な事を忘れてる。
何だっけ?
思い出さなきゃいけないのに……思い出せない?
「じゃぁ、スクルドに行くって事でいいんですか?」
さっきのあのイメージは何だったんだろう?
誰かが死ぬのが見えた。
私は……あの時、何をしてたんだっけ?
あの場所に居たはず……。
「ぅぅ……」
頭が痛い、割れそう……だよ……。
私が唸り声をあげるとクリエお姉ちゃんは心配してくれたみたいで、私の頭を撫でてくれる。
それだけで、少し痛みが和らいだ気がした。
「とにかく、準備をします」
チェルさんはそう言うと私の方へと寄って来た。
「もうちょっと我慢してね? キューラちゃん」
私にそう告げた彼女はいそいそと旅立ちの準備をし始めた。




