353 目覚め……
「んぅ……」
「キューラちゃん! 大丈夫?」
目を覚ますと目の前には誰かが居た。
誰だろう? そう思いつつ身体を動かすと思うように動かない。
「まだ動かない方が良いよ。相当危なかったみたいだしね」
そう言うのはエルフの女性。
彼女は……? えっと……。
「キューラお姉ちゃんっ!」
少女は此方へと近づくと急に抱き着いて来た。
「…………お姉ちゃん?」
そして、不安そうに見つめてくる。
「え、あ……ご、ごめんね? もう大丈夫だよ?」
そう言うと、彼女は目を見開き驚いている……。
「どうしたの?」
私の反応はおかしかったのだろうか?
そう思い、不安になると……。
「キュ、キューラちゃん? ねぇ、どうしたの? その口調……まるで……」
「え? あの……」
キューラと言うのは私の名前らしい。
それは分かったけどこの人達は誰だろう?
それに、この子……私の妹? だけど、覚えてない。
思い出せない……。
妹? 確かに大事な子だったのは覚えてる。
周りの人達も怖いとかそういうのは感じない。
ずっと一緒だったような気もするしそうじゃない気もする。
それに、あそこに倒れてる女の子もそうだ。
あの子は特別だったはず。
そう思いだせてもそれ以上は無理。
「キューラ、あんたその子の名前言えるかい?」
「……え?」
そう言って指をさすのは抱き着く女の子。
そして、次にスライムへと指を向けた。
「えっと……その子はライム」
スライムのライム。
この子はずっと一緒だった。
どんな時も弱い私を守ってくれた。
大事な大事な使い魔だ……だけど、あれ? どんな事から守ってくれたんだっけ?
「それに、この子は……」
妹……のはずのなのに思い出せない?
一体、誰だっけ?
そもそも私って妹居たっけ?
「まずい事になったね……お嬢ちゃんに続いてキューラもか」
「ど、どういう事ですか?」
「記憶が狂っちまったのさ……色々とあったからね」
彼女はそう言うと私の方へと目を向けた。
その目を見ると不安になる。
そう思いながら私は身構えた。
だけど、どうする事も出来ない。
「他に覚えている事は? お嬢ちゃん、クリエの事とかね」
威圧的な彼女に対し、私は必死で思い出そうとする。
すると……。
「クリエ……そうだ、私はクリエお姉ちゃんと旅に出た……学校から呼び出されて、それで……」
ライムと出会って……あれ?
私……他にも誰かにあった様な?
でも、誰だっけ?
「っ!? あ、頭が痛い……」
思い出そうとすると頭痛がして、思わず頭を抱える。
すると……。
「大丈夫だから、無理に思い出そうとしないで」
と彼女は言ってくれた。
でも、思い出さなきゃいけない気がする。
そう思ってもやっぱり頭が痛くて何も思い出せない。
私は一体どうしちゃったんだろう?
「クリエお姉ちゃん……」
不安になった私は彼女にすがろうとした。
だけど、彼女は倒れていて、助けてもらえる状況じゃない。
「ど、どうしたらいいの?」
私は不安になって涙を流す。
だけど、それで解決する訳が無い。
そこには私の泣き声だけ響き渡り……。
他の人達は不安そうな顔を浮かべていた。
「キューラちゃん……」
優しい女性は私を抱き寄せ慰めてくれようとしてくれた。
だけど、それでも私は不安だった。
だって、何時も守ってくれるクリエお姉ちゃんが居ない。
実際にはそこにいるけど、守ってくれるような状況じゃない。
「キューラお姉ちゃん」
寂しそうに私を呼ぶ彼女はそっと傍に寄って来た。
そして、私の手を握る。
なんで、そんなに良くしてくれるのかが理解できなかった。
だって私は大事な妹の名前すら覚えていない。
なのに、それなのに……。
この子は私を心配してくれている。
「ごめんね、ごめんね……大事なはずなのに……」
せめてこの子の名前を思い出してあげたい。
そう思ってもなにも引っかかる事は無かった。
「ファリス……私の名前ファリス」
彼女はそう言い、私の手を握る手に力を込めた。
「ファリス……」
口にしてみると彼女は頷く。
妙になじむその名前は言いやすかった。
昔から呼んでたからなのかな? そう思いつつ……。
「ごめんね、ファリス……駄目なお姉ちゃんで、ごめんね」
謝ると彼女は首を振る。
「ごめんなさい」
私はそれでも謝り、泣き疲れてうとうとし始めた。
そして、ゆっくりと眠りの中へと落ちていく……。




