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351 心の行方

 翌朝、俺はゆっくりと瞼を開ける。

 するとそこには心配そうな顔のクリエとファリスが居た。

 どうやら、寝すぎてしまった様だ。


 身体を持ち上げると二人は寄り添う様にしてきた。

 恥ずかしいが、跳ねのける元気もない。

 周りを見ても勿論カインの姿は無かった。


「キューラちゃん、起きたの?」


 そう言って来たのはチェルだ。

 彼女は優しげな声と表情だった。

 辛いだろうに、それを我慢してるのか……。

 それで間違いないはずなのに……。


「カインは……?」

「――っ!?」


 俺は思わず彼の名前を呼んでしまった。

 彼女がいつも通りだ。

 だからきっとカインも無事なんじゃないか?

 そう思いたかった。

 目の前で死んだのに……夢じゃないって分り切っているのに……。


「忘れたのかい? アイツは死んだよ」


 そう言うのはトゥスさんだ。

 彼女が近づいてくると前へとチェルがまるで庇う様に入り込んだ。

 なんで、そんな事をするのだろう?


「…………」

「はぁ、さっさと行くよ飯なら作ってやったまずいけどね」


 彼女は根負けした様に溜息をつくとそう言って去って行く……。

 去ると言っても近くにある焚火の所だが、そこに座り込むと複雑そうな顔をし食事を取っている。


「…………チェル?」

「さ、ご飯食べよ? 皆で待ってたんだからね」

 

 彼女はそう言うと「ね?」とクリエとファリスに尋ねる。

 二人はほぼ同時に頷いた。

 何だ? 今のは……。

 トゥスさんと何かあったのだろうか?

 そう思いつつも、俺は立ち上がりその食事を口へと運ぶ。

 美味しくはない。

 だが、食べれなくもない……。

 そう思いつつも、食べ物を口へと運ぶ。

 ただ黙々と……。


「キューラちゃん……」

「……ん?」


 チェルに名前を呼ばれ、俺は彼女の方へと目を向けた。

 すると彼女は布を取り出し俺の頬や目元を拭い始める。

 そんな所に食べかすが付いているのだろうか?

 器用な食べ方をしてしまったのだろうか?

 そんなはずはない。

 どうやら俺は俺が気が付かない内に涙を流していた様だ。


「……ごめん」


 俺はただそれだけしか言えなかった。

 辛いのはチェルのはずだ。

 苦しいのはチェルのはずだ。

 泣きたいのもチェルのはずなんだ……!!


 なのに、俺が泣いてそのチェルが俺を心配している。

 これじゃ、あべこべだ……。


 そう思いつつも俺は食事の手を止め、それから一切口に出来なくなってしまった。

 泣きわめく訳じゃない。

 ただ、食欲もわかなかった……。


 情けない。

 そんな俺を見ても誰も何も言わなかった。呆れているのだろうか?

 それとももう、俺は見捨てられたのだろうか?

 最早どうでもいい。

 俺は仲間さえ守ってやることが出来ない弱者だから……。

 俺は……俺は……。


「っ!! おい、キューラ魔物だよ」


 トゥスさんに言われ俺は振り返る。

 そこには確かに魔物が居た。

 最初に出会った魔物コボルトだ。

 食べ物の臭いに釣られやってきたのだろう。


『ぐるるるるる……』


 戦わなきゃいけない。

 そう思いつつ、俺は拳を握る。

 そして、魔物へと向かって走り始めた。


「キューラちゃん!? 駄目!!」


 すぐにチェルの声が聞こえた。

 だが、そんな事を気にする余裕もなく俺はコボルトを殴る。

 嫌な手応えがして俺は顔をあげた。

 これで終わり。

 そう思っていた。

 だけど……現実とは非情で残酷……。

 俺は拳を受け止められていた。


「あ……」


 ただそれだけを口に出来た俺は――。

 その後に覚えていたのは地面に叩きつけられた記憶だけだった。





 大きな音がし少女の身体が地面へと叩きつけられる。

 それを見た仲間達は青い顔をした。

 例え雑魚と呼ばれるコボルトも魔物は魔物。

 それなりの力を持ち、討伐隊も編成されることだってある。

 強くはない魔物の為、退治されない事はそうそうないが……。

 だが、格下の魔物相手に油断をし死ぬ者も決して少なくなない。


「……嘘」


 だからこそ、それも普通と言えば普通だった。


「……お、おい?」


 だが、少女にとってはそれが引き金となるには十分な者だった。


「キューラお姉ちゃん?」


 声に反応しない少女。

 それを見た彼女は――。


「あ、ああ?」


 声を震わせる……。

 彼女の脳裏に浮かんだのは嘗て約束した言葉。


『髪の毛一本傷つけませんよ』


 ただそれだけだった。

 だが、現実は……。


「い、……や……」


 彼女は髪の毛一本どころか思いっきり地面に叩きつけられてしまい……動く様子がない。


「嫌!? 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌!?」


 何度も嫌と繰り返す少女は――天を仰ぎ……。


「嫌ぁぁぁぁあああああああああああああ!?」


 喉が張り裂けんばかりに叫ぶのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 急にサブタイトルに話が付いた(゜ω゜) [一言] キューラちゃん……(゜ω゜)
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