349 自分の所為……
泣いてしまった。
あれから俺は力が抜けた様に立ちあがれなくなり、その場で休息を得ることにした。
準備を進めてくれる仲間の中にはカインはいない。
彼は死に……この世を去った。
俺がすぐにチェルに頼んでいればこんな事にはならなかったはずだ。
そう思うのとあれではどんなに望んでも助かる見込みは無かった。
と言う思いが混じり、俺は膝を抱える。
涙は枯れる事無く流れ続け、俺はただただ自分の判断を悔いた。
もっと冷静になるべきだった。
もっと準備をするべきだった……。
スクルドに鳥を飛ばせば他にも冒険者はいたはずなのにだ……。
「俺の所為だ……俺の……」
俺がそう呟くとファリスが心配そうに俺の顔を覗き込む。
だが、そんな彼女にさえ「大丈夫だ」の一言を告げる事は出来ない。
事実、何が大丈夫なのか分からないし、何も出来ないからだ。
チェルも辛いだろうに動けている。
だが、俺は……何が出来る?
クリエを守る? 仲間一人……いや、ノルン達を守ってやれなかったのに……。
俺にそんな大それたことが出来るのか?
いや、無理だ……。
俺は弱い。
今までは仲間が居てくれたから戦ってこれた。
だが、それを自分の力と過信していた訳ではない。
それでも、油断はあった。
こいつらとなら……。
皆となら……。
そう思っていたからこそ、カインは死んだ。
心のどこかで負けるはずが無いと考えていたから……。
俺の所為で彼は――。
「俺の、俺の……俺が……」
ぶつぶつと俺が呟くとふと視線を感じた。
俺はそちらの方へと目を向けると……。
そこにはスライムに囲まれた少女の姿が移った。
ライムは彼女の太ももの上に座り込み、こちらを見ているようにも見える。
一方少女は感情の無い瞳で俺を捉えている。
やめろ……そんな目で見ないでくれ……。
俺は、君の笑顔さえ守る事は出来なかったんだ……。
「俺が誰かを守るなんて……出来るはずが無かった」
思わずそう口にした。
その瞬間だ。
見えづらい右側から頬をはたかれた。
痛みは殆ど無かった。
だが……一瞬誰にはたかれたのかが分からなかった。
「私はキューラお姉ちゃんに助けられた!」
その言葉を聞き俺はようやく誰にはたかれたのかを理解した。
「ファリス……?」
「お姉ちゃんは強い……でも、全部自分の所為にするのは良くない」
「そうは言われても今回の事は……」
俺の所為だ。
そう言おうとしたら今度は抱きつかれた。
弱弱しい力だ。
この子はこんなに弱かったのか?
いや、そんなはずはない……。
「街の事も、そう……あの貴族の代わり何てする必要、無かった」
涙交じりの声は途絶え途絶え聞こえてくる。
それは違う。
そう口にしたかった。
「人が守れるものには限度がある。全部背負い込んだらキューラお姉ちゃんが壊れちゃう」
今度ははっきりと、そして俺を見上げながら少女はそう言った。
俺は強くないし……。
だからと言って何かを見捨てる程非道でもない。
仕方のない物は仕方がない。
そう判断してきたつもりだ。
だが、彼女にはそう映らなかったのだろうか?
「ファリス……」
俺を姉と慕う少女は大粒の涙を流していた。
俺は彼女に何も言ってやれず、顔を逸らす。
するとそこにはクリエの姿があり……。
彼女も泣きそうな顔で俺を見つめて言る。
そう言えば、クリエにも怒られた事があった様な気がする。
すべてを背負い込むなんて大それた真似は出来ない。
そんな事は分かっていた。
「…………お姉ちゃんも壊れちゃうよ」
ファリスは最後にそう呟くと俺の胸で泣き始めてしまった。
嘘には思えない。
子供の泣き声だ……。
「………………」
お姉ちゃん”も”か……不安だったんだろう。
彼女は大丈夫だなんて勝手に思い込んでいた。
そんなはずはない……。
ファリスだって仲間だ……カインが死んで何も思わなかった訳じゃないだろう。
だというのに俺はまた勝手に……。
それが悔しくて情けなくて、でも他に彼女を慰める方法は思いつかなかった。
ただただ、俺は涙を流しながらファリスをそっと抱き寄せた。
二人して泣く様子を見ていただろうチェルは何も言わなかった。
本当に泣きたいのは彼女自身だ。
なのに、何も言わず……彼女はただそこに居た。
トゥスさんも責める事は無く、ただただ黙ってそこに居てくれた。
そして、クリエは……思いつめた表情で俺を見つめる。
そんな目で見ないでくれ……。
俺は……もう、分かってしまった。
どんなに頑張っても俺は俺でしかないんだ……。
でも、そんな不安そうな顔をしないでくれ……君を守ると言ったのは俺なんだから……。




