348 疲弊……
キューラ達が去った後。
鎮火された村に馬に乗った騎士が現れる。
「これは……むごい……生存者は……」
彼がランタンの明かりを頼りに生き残っている人々を探していると盛り上がった土を見つけた。
「これは?」
そこには簡易的ではあったが墓標が建っていた。
「誰かが建てたのか? しかし、一体誰が?」
彼が墓標を眺めているとガラガラと言う音が立ち、彼は腰に携えた剣へと手をかけ、振り返った。
「――!! 大丈夫か!?」
彼が見たのは奇跡的に助かったであろう、男性。
「何があったんだ、喋れるか?」
尋ねると……。
「スク……ルド……勇……者……助け……」
それだけを呟き、彼はこと切れてしまった。
「スクルド、勇者? 助け……まさか、いや、しかしあそこにいる勇者は反逆者だと……」
彼はぶつぶつと呟くとスクルドのある方へと目を向ける。
そして、倒れた男の方へと振り返り。
「弔ってやらないといけないか……アンデッドになられたら面倒だ」
そう言うと木の板を手に取り、土を掘り返す。
「とにかく、これが終わったらファーレン王に伝えなくてはならないな」
その瞳には静かな炎が灯っていた。
俺達は暗い夜道を進む。
夜は危険だ。
魔族や混血でなければほぼ見えないし、街道に街灯なんて当然ない。
つまり、魔物達の領域と言っても良いだろう。
「またか……」
俺は目の前に現れた大きな蝙蝠へとため息をついた。
流石に夜の強行軍は間違った判断だったかもしれない。
チェルも疲れているようだし、クリエもよろよろしている。
それに――。
「銃弾の残りが少ないよ、こんな雑魚に使っていられない」
「そう、だよな……」
銃や弓と言った武器には当然矢、弾が必要になってくる。
当然多くは持てないし、使えばつきる。
だから俺とファリスでなるべく戦うようにはしていた。
「キューラお姉ちゃん……」
だが、ファリスは子供だ。
この時間では眠いらしく本来の力が発揮されていない。
「ファリスは休んでろ……」
俺は雷のナイフを取り出し、それを投げつける。
相手は大きな蝙蝠……名前は確かあったはずだ。
だけど、今はそんな事はどうでもいい。
当然、ナイフを避ける蝙蝠の背後に回った俺は拳を振るう。
地面へと落ちたソレへと向けトゥスさんが斧を振り下ろした。
すると雷鳴が響き……鈍い音が辺りに聞こえた。
「これはもう駄目だね」
どうやら武器が壊れたようだ。
俺は先程投げたナイフを見てみるが、そちらももう使い物にはならない。
「……行こう」
だが、それもどうでもよく俺は壊れたナイフをその場に置くとそのまま歩き出す。
「……待ってっ!」
途中ファリスの声が聞こえ、振り返ると彼女は危うく転びそうなところだった。
慌てて彼女を支えると子供らしい笑みを浮かべるが、俺は怪我が無いかだけを確認して歩き始める。
「待って……」
今度は別の声が聞こえた。
チェルの声だ……。
一体なにを待つというのだろうか?
ああ、そうか……死体をそのままにしたら魔物だってアンデッドになる。
早く焼き払わないと……。
「ファリスちゃんがもう限界だよ、ふらふらしてる……休んだ方が良いと思う」
俺が振り返るとそう口にしたチェル。
そんな事は分かっていた。
だが、それでも前へと進んでいた……。
「早くスクルドに戻ろう」
「……このままじゃ、また誰かが」
そこまで言ってチェルは辛そうな顔をした。
だが、そんな事は――。
「分ってるさ……分かってるからどうすれば良いのか分からないんだろ!?」
俺は思わず声をあげた。
目の前で何人も死んだ。
たったの数日前までは笑っていたはずだ。
なのに目の前で命を失った……。
俺がクリエを助けたいと言ったからか? 俺がゴブリンを倒そうと言ったからか?
どちらにしても、俺の所為には間違いない。
「俺が……俺の所為で……皆、死んだんだ……」
そう口にすると膝から折れた足は地面へと張り付いたかのようだった。
今まで怖いと思う事は何度かあった。
だが、正直その度に何とかなって来た。
だから今回も大丈夫だろう……そんな考えが片隅にあったのかもしれない。
しかし、現実は違った。
人は脆く、また弱い存在だ。
何かが間違えば簡単に命を落としてしまう。
それを、思い出させるような事がこのところ多すぎる。
そして、ついに俺は仲間であるカインを失った。
目の前で……。
「何も出来なかった……」
俺は目頭が熱くなり、涙を抑えることが出来なかった……。




